夢の技術が直面する「現実」という壁
この壮大な計画は、果たして実現可能なのだろうか。もちろん道のりは平坦ではない。
まず、生成される金の安全性だ。天然の水銀には様々な同位体が含まれており、それらが中性子と反応すると、放射能を持つ不安定な金ができてしまう可能性がある。ルトコフスキー氏も、生成された金が安全に取引できるようになるまで「おそらく14年から18年の保管期間が必要になるだろう」と認めている。
そして何より、核融合発電そのものが、まだ商業化には至っていないという最大の壁がある。投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを生み出す実用的な原子炉は、まだこの世に存在しないのだ。
Marathon Fusion社自身も、2023年に設立されたばかりの若いスタートアップだ。それでも、ビル・ゲイツ氏にプレゼンを行うなど、その斬新なアイデアは着実に注目を集め始めている。

錬金術、再創造の時代へ
原子を別の原子に変える「元素転換」のアイデア自体は目新しいものではない。しかし、これまでは巨大な加速器などを使った科学実験の域を出ず、コストがかかりすぎてビジネスにはならなかった。
Marathon Fusionのアプローチが画期的なのは、核融合発電の「ついでに」金を生成するという点にある。もしこれが実証されれば、話は大きく変わる。金の収益という強力なインセンティブが、莫大なコストのかかる核融合開発全体を加速させる起爆剤になるかもしれないのだ。
核融合エネルギーが、クリーンで無限の電力を供給するようになれば、それだけでも世界は変わる。しかし、もしその傍らで、文字通り「富」まで生み出せるのだとしたら…?それはまさに、人類が長年追い求めた錬金術の物語が、最も輝かしい形で完結する瞬間となるのかもしれない。
参考:ZME Science、ほか
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