「再生」という抽象的なスローガンの中身が明確に示されず、批判はできても代替案を提示できない状況が続いた。有権者が求める具体的な生活改善策の提示がなければ、一時的な注目を持続的な支持に転換することは困難だ。

筆者が特に問題視するのは、石丸氏の政治スタイルから市民への共感や温かさが感じられない点だ。市民の不安や期待に寄り添う姿勢の欠如は、「新興宗教の教祖のような話しぶり」といった批判的な声も生んでいる。

政治は論理だけでなく、人と人との信頼関係で成り立つ。どれほど論理的に見えても、感情的な共感なしに持続的な支持は得られない。

新しい政治参加のあり方を考える

石丸現象は重要な教訓を提供している。第一に、批判だけでは建設的な変化は生まれない。第二に、パフォーマンスは一時的な注目を集めても、信頼構築には不十分だ。第三に、市民との真摯な対話なくして、健全な民主主義は機能しない。

既存政治への不満は確かに存在する。しかし、その受け皿となるべき新しい勢力が対立と分断の演出に終始するなら、結果的に現状維持を助長することになる。

今後の政治参加において重要なのは、単なる批判や論破ではなく、異なる意見に耳を傾け、共に解決策を模索する姿勢だ。市民一人ひとりが、パフォーマンスに惑わされず、政策の中身と実行可能性を冷静に評価する目を養うことが求められている。同時に、新しい政治勢力には、批判を超えた建設的な提案と、市民との継続的な対話の場を作ることが期待される。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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