そして2023年、研究チームは10年越しの“第二波”に遭遇します。
今度は、別のグループのチンパンジーが再び草を耳に挿す行動を取り始めただけでなく、新たに肛門に草を挿して垂らすという派生行動まで生まれていたのです。
このグループはたった8頭の小規模な集団でしたが、観察が始まってわずか1週間で5頭が耳に、6頭が肛門に草を挿すようになっていました。
他の7グループ、計136頭では一切見られない行動です。

この「草ファッション」は果たして偶然なのか? それとも、誰かをマネして広まったのか?
研究チームはこの疑問を明らかにするため、「ネットワーク拡散分析(Network-Based Diffusion Analysis, NBDA)」という統計手法を使いました。
これは、ある行動がグループ内にどのように広まったかを、個体間の社会的つながりに基づいて解析するものです。
個体同士がどれくらい一緒にいるか、どれだけ近くで行動するかといった社会的な距離(ネットワーク)をもとに行動の伝播パターンを分析しました。
チンパンジーは“意味のないマネ”もする? それは「つながり」の証かもしれない
分析の結果、草を耳や肛門に挿す行動の拡散パターンは「個体が他の仲間の行動を見てマネした」とする社会的学習モデルに一致しました。
特に、草を肛門に挿すという突飛な行動については、統計モデル上、ほぼすべてが社会的模倣によるものと支持されています。
つまり、チンパンジーたちは生きるためではなく、ただ意味のない行動を「マネして」いたのです。
ではなぜ、彼らはこんな奇妙な行動をするのでしょうか?
