このBA.2.86系統は、その後さらにL455Sという新たな変異を獲得し「JN.1系統」となった後でようやく広がりを見せ始めました。

つまり、最初の段階で自然に短期間に広範囲へと拡散するには感染力が弱すぎたのです。

これらの事実から、研究者たちは自然な感染拡大や一般的な変異進化のプロセスでは、このBA.2.86系統の出現と世界への拡散を説明できないと考えました。

では、どのような仕組みがこの異例の現象を生み出したのでしょうか?

梱包されたウイルスが世界を移動し漏洩した可能性がある

梱包されたウイルスが世界を移動し漏洩した可能性がある
梱包されたウイルスが世界を移動し漏洩した可能性がある / Credit:Canva

今回の研究によって、「BA.2.86系統が自然な感染拡大や一般的な進化プロセスでは説明できない特殊な経緯で広がった可能性」が示されました。

これは非常に慎重な言い方をしていますが、簡単にいえば「通常ではありえない経路で、世界各地にほぼ同時期に広まった可能性がある」ということです。

ここから浮上してきた仮説は、大変興味深いものでした。

研究チームは、BA.2.86系統が、人間以外の動物や培養細胞の中で人工的に培養・継代された可能性を指摘しています。

さらに、その培養されたウイルスが研究目的で世界各地の研究機関へ輸送される途中に、梱包が不十分だったために漏れ出し、世界の様々な地域で散発的に検出される事態が生じたかもしれないというシナリオを提示しています。

もしこれが事実だとすれば、イメージとしては「ウイルスを詰め込んだ箱が、飛行機やトラックで世界中を移動し、予期しない場所で中身がこぼれ落ちた」と言えるような、驚くべき事態が起きていた可能性があるのです。

もちろん、これはまだ一つの可能性にすぎません。

しかし、この仮説が従来の説と大きく異なる点は、感染力がそれほど強くないBA.2.86が、短期間で世界中の複数の地域に出現したことを合理的に説明できることです。