ここで研究者たちは新たな疑問に直面しました。

感染力が強くないBA.2.86系統が、なぜ地理的に遠く離れた複数の国で、ほぼ同時期に散発的に検出されたのか?

これは自然に起こり得る現象なのだろうか?

それとも何らかの人為的な要素が絡んでいるのだろうか?

この奇妙な拡散パターンを説明するためには、BA.2.86がいつ、どこで、どのように出現したのかを詳しく調べる必要があると考えました。

そこで筑波大学の研究チームは、このBA.2.86系統の起源を明らかにするため、ウイルスが検出された時期と場所、そして変異の特徴を詳しく調べることにしました。

統計分析が示した『自然ではない拡散』

統計分析が示した『自然ではない拡散』
統計分析が示した『自然ではない拡散』 / 2023 年 7 月に新型コロナウイルスのオミクロン株 BA.2.86 系統が検出された場所とその検出数/Credit:Anomalous Spike Mutations and Sporadic Global Detection of the SARS-CoV-2 BA.2.86 Lineage

感染力が強くないBA.2.86系統が、なぜ地理的に遠く離れた複数の国でほぼ同時期に散発的に検出されたのでしょうか?

この謎を解明するために、研究者たちはまず、世界各地でのBA.2.86系統の発生パターンを詳しく調べました。

具体的には、国際的なウイルス遺伝子データベースであるGISAIDに登録されたBA.2.86系統とその派生型であるBA.2.86.1系統について、最初に検出された2023年7月から8月にかけてのサンプル情報を解析しました。

その結果、BA.2.86とBA.2.86.1系統は、北米やヨーロッパ、アジア、アフリカなど世界8地域のうち、南米を除く7つの地域でほぼ同じタイミングに検出されていることがわかりました。

これは非常に異例な広がり方で、他のウイルス変異株では通常、一つの地域を中心に流行が始まり、徐々に他地域へと広がっていくのが一般的です。