2018年10月5日、スルガ銀行は、投資用不動産に関連した融資において不正な行為があったとして、金融庁より極めて厳しい業務改善命令を受け、現在でも、問題の完全な解決には至っていない。しかし、かつてのスルガ銀行は、個人業務に特化し、独自の顧客本位な戦略で成長してきた優良企業だったのである。

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スルガ銀行は、2000年の「コンシェルジュ宣言」において、顧客の「夢をかたちに」し、顧客の「夢に日付を」いれることをもって、自己の社会的使命に定めた。これは、金融機能が資金使途の実現にあり、その実現が顧客の夢であることを考えるならば、銀行の役割を顧客の視点で表現したものとして、極めて優れた経営戦略だったといっていい。

実際、将来のどこかで住宅をもちたいという夢を具現化して、そこに現在の日付をいれるものが住宅ローンであるように、住宅や車などのものを買う、旅行する、海外留学する、子供を私立学校にいれるなど、人々のもつ様々な夢を実現するためには資金が不足していることも多く、そこに融資をすることで、夢に具体的なかたちを与え、夢が実現する日付を定める、ここにこそ個人金融の本質があるわけだ。

銀行の対応として、例えば、住宅ローンの申し込みがあれば、見込み顧客の属性を表現する客観的な諸指標と、対象となる住宅の価値を表現する客観的な諸指標との組み合わせに基づいて、融資の可否の判断と融資条件の決定をすればいいだけのことである。そこで顧客の夢に思い至る必要はない。

それに対して、スルガ銀行の場合、住宅ローンの申し込みを受けたとき、まずは「夢を叶えてさしあげたい」という気持ちを抱き、その後で他行と同じ諸手続きに移行するのだとすれば、顧客対応にも自然な親しみと思いやりが現れたであろうし、場合によっては、融資の可否の判断や融資条件等にも微妙な差異を生じていたのかもしれない。