アンバーグリス(Ambergris)という物質をご存知でしょうか?
これは”灰色の琥珀”を意味する古フランス語のアンブル・グリ(ambre gris)に由来し、日本では龍涎香(りゅうぜんこう)の名で知られています。
龍涎香と聞いてわかるように、アンバーグリスは独特の芳香性を持つ、世界で最もエキゾチックかつ高価な香料の一つです。
香水の原料や香りを持続させる保留剤として利用され、その価値は金と同等。クオリティの高い場合には、数百万〜数千万の高額で取引されるという。
一方、アンバーグリスは、英語圏で「クジラの嘔吐物(Whale Vomit)」と呼ばれています。
そう、アンバーグリスを作り出すのはクジラなのです。
しかしクジラの嘔吐物が、よい香りを放つとはにわかに信じがたいこと。
そこでクジラの嘔吐物がなぜ心地よい香りを放つのか、そして、なぜこれほど高価なのかについて説明していきます。
目次
- アンバーグリスはどうやって作られるの?
- どんな「香り」を放つ?
アンバーグリスはどうやって作られるの?

アンバーグリスは、英名で「クジラの嘔吐物」と表現されますが、厳密には「嘔吐物」ではありません。
理由は、その生成の仕方にあります。
まず前提として、アンバーグリスを作るのは、マッコウクジラのみです。
(マッコウクジラは絶滅危惧種に指定されており、それもアンバーグリスの希少価値を高くしている理由の一つ)
マッコウクジラは、食物をよく消化するために、胃を4つ持っています。
彼らは通常、イカやコウイカを好物とし、それらは消化されながら胃から胃へと移動します。
その過程で、イカの鋭く硬いクチバシや他の未消化の廃棄物が密集した塊となり、クジラの胃の粘膜を刺激します。
このとき、クジラは未消化の塊を海に吐き出すことがありますが、これはまだアンバーグリスではありません。