学生たちには事前に「視覚探索タスクにおける目の動きを観察する」とだけ伝え、実験の目的は明らかにしていません。

そして、最初の視覚探索タスクをしてもらった後、実験者が何か忘れたふりをして部屋から出て、その直後に、見知らぬ協力者が部屋に入ってきます。

協力者は、他の実験参加者のふりをして、先にいる学生に軽く挨拶してから、自分のアンケートに取りかかります。

この「見知らぬ人との対面」という不安を誘引する状況での学生の視線の動きを追跡し、SADのスコアと比較分析。

その結果、SADのスコアが高い学生ほど、「協力者への視線の初期固定時間が短く、周囲への視覚探索レベルも低い」ことが判明しました。

もっと噛み砕いていうと、社会不安を覚える人ほど、見知らぬ人に気づいてから目をそらすスピードがはやく、さらにキョロキョロしなかったということです。

つまり、これは過覚醒ではなく、回避性を意味します。

また、SADスコアが低い学生でも、過覚醒より回避性を示していました。

なぜ視線を動かさないのか

これについて、研究主任のイルマ・コノバロワ(Irma Konovalova)氏は、「儀礼的無関心(civil inattention)」という現象を反映している可能性が高いと指摘します。

儀礼的無関心とは、見知らぬ人同士が互いの存在を認めながらも、儀礼的に無関心を装う行動です。

たとえば、エレベーターの中で赤の他人と乗り合わせたとき、自分の存在をアピールせず、かつ「あなたのことも気にしてませんよ」と装うことがあるでしょう。

他人にジロジロ見られることは心理的なストレスとなりますが、それを互いに回避する行動、これが儀礼的無関心です。

学生たちは、まさにこの行動を取っていたと予想できます。

特に、SADスコアの高い学生は、スコアの低い学生に比べて、他人を見つめる時間も短く、ほとんどキョロキョロしない上に、視線の移動範囲も狭いことが分かっています。