黒坂岳央です。

「資産1億円ではお金持ちとは言えない」 「都内のマンションですら今や1億円超えはザラ」 「長期投資で誰でも到達可能」

SNSや動画でこのような言説を見かける機会は増えている。確かに日本には、資産1億円を超える世帯が約2.6%(野村総合研究所調査)存在するというデータもある。こうした情報だけを見ていると、「資産1億円は大したことではなく、頑張れば誰でも到達可能」と錯覚してしまいがちだ。

しかし、ここで抜け落ちている重要な視点がある。それは、「何歳で到達できるか?」という観点だ。資産1億円を“若くして”築くことは、想像以上に難易度が高い。

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資産1億円にかかるリアルな期間

まず、収入面からのアプローチを考えてみよう。

年収1000万円の場合、手取りは約700万円。生活費を400万円とすれば、年間貯蓄は300万円。1億円に達するには約33年かかる。

年収2000万円なら手取り約1300万円。生活費を800万円と仮定すると、年間貯蓄は500万円。到達には約20年かかる。

つまり、高年収であっても20~30年という長い期間を一貫して高所得・倹約生活を維持しなければならない。これは決して容易なことではない。

仮に生活費を切り詰めて貯蓄ペースを上げたとしても、QOL(生活の質)とのトレードオフは避けられない。高収入者ほど仕事のストレスや生活水準の維持にコストがかかるため、無理な節約は現実的でない。

資産運用は本当に「近道」か?

資産形成において「運用で増やす」という考えは当然の発想である。特に高年収者が年利4〜5%の堅実な投資を行えば、資産到達までの年数は確かに短縮できる。しかし、そこには前提条件がある。

・運用元本が十分にあること ・長期でブレずに継続できること ・大暴落や詐欺案件などの外的リスクを避けること

たとえば、1000万円を年利5%で複利運用した場合、1億円になるまでには約34年かかる。仮に年間300万円ずつ追加投資しても、1億円に到達するには25年以上を要する。つまり、堅実な運用でも「時間」は避けられないのである。