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ドイツの「ブラックアウト・ニュース(Blackout News)」は、欧州における脱炭素政策(欧州では「ネットゼロ」と称される)による経済的な悪影響を日々報じている。本稿では、その中でも特に産業の衰退(いわゆる産業空洞化)と雇用喪失に関する情報を紹介する。

近年、ドイツではエネルギー価格の高騰や環境規制の強化により、産業界が甚大な打撃を受けている。ドイツのCO₂排出量は減少傾向にあるが、その主要因はエネルギー多消費型の産業が縮小したことによるものである。筆者らはこの現象を「非政府エネルギー基本計画」という観点から経済学的に分析してきたが、本稿ではその具体的事例を取り上げたい。

ドイツでは、鉄鋼、化学、自動車といった基幹産業が国際競争力を喪失し、数多くの企業が海外移転を選択している。

たとえば、2025年にはドイツ国内の主要な化学企業6社が大型プラントの停止を相次いで発表し、約2,000人の雇用が危機に瀕していると報じられている。エネルギー価格の急騰と需要の低迷により、化学産業は「存亡の危機」に直面しており、ダウ社などの海外資本もドイツ国内での生産縮小に踏み切った。

以下に、「ブラックアウト・ニュース」が報じたドイツ国内の工場閉鎖・生産停止の事例を表形式でまとめる。ただし、これは一部の事例に過ぎず、実際には日々膨大な数の報告がなされている。

企業名 特徴 生産減少と雇用減 主な理由・記事日時

BASF(独) 化学(欧州最大の化学メーカー) 本社ルートヴィヒスハーフェンで工場11か所を閉鎖 高エネルギー価格による競争力喪失(2024年7月27日)

アルセロール・ミッタル(ArcelorMittal、ルクセンブルク) 鉄鋼(世界第2位の鉄鋼メーカー) ハンブルクの製鉄所で数週間の生産停止。約550人が一時帰休 エネルギー価格の急騰に伴う採算悪化(2023年10月19日)

SKWピーステリッツ(独) 化学(肥料、独最大のアンモニア製造企業) アンモニア工場を一基停止し生産大幅削減 エネルギー費(ガス代)高騰で採算割れ(2025年1月22日)

フォイストアルピーネ(Voestalpine、墺) 自動車部品(鉄鋼大手、独にも生産拠点) 独ラインラント=プファルツ州の部品工場を閉鎖。約220人が失職 自動車需要の縮小による採算悪化(2024年10月25日)

ダウ(Dow)(米) 化学(基礎化学品、独東部で生産) 独ザクセン州の大型化学プラント2か所を閉鎖。約550人が失職 エネルギー高コストと需要低迷(2025年7月15日)

企業意識調査の結果からも、産業空洞化の傾向が顕著である。ドイツ産業連盟(DIHK)の最近の調査によれば、エネルギー多消費型の企業の約40%が国内投資を削減する計画を立てており、さらに4分の3がエネルギーコストの高騰を重大な経営リスクと見なしている。また中小企業の3割超が、海外での新工場設立を検討しているという。