さらにもう一つ重要な改良は、量子ロッドの表面に付着する「リガンド」と呼ばれる有機分子の長さを短くすることでした。
このリガンドという分子は、もともとは粒子を液体の中で安定させる役割を持っています。
しかし、このリガンドが長すぎると、まるで茂みが道を塞ぐように電荷の流れを妨げ、内部まで電気が届きにくくなります。
そこで研究チームは、このリガンドの長さを短くすることで、粒子内部への電荷の通り道を確保し、量子ロッド内へスムーズに電荷が入るようにしたのです。
さらに研究者たちは、量子ロッドLEDのデバイス構造そのものにも工夫を凝らしました。
量子ロッドLEDでは、量子ロッド層に電子と正孔という2種類の電荷をうまくバランスよく送り込む必要があります。
これまでのデバイスでは、電子が正しい場所に届く前に漏れ出してしまう問題がありました。
そこで研究チームは、正孔を送り込む役割を持つ有機材料層を1種類ではなく2種類重ねて使用するという工夫をしました。
具体的には、PF8CzとPVKという異なる特性を持った有機材料を積層し、2重の防御壁を作ることで、電子が漏れ出すことを防ぎつつ、正孔をより確実に送り込むことに成功しました。
これらの革新的な工夫によって完成した新型の量子ロッドLEDは、驚くべき性能向上を実現しました。
まず、投入された電気エネルギーを効率よく光に変換する「外部量子効率(EQE)」が24%という、従来の最高値22%を上回る新記録を達成しました。
また、消費する電流に対して得られる明るさの指標では、1アンペアあたり89カンデラ(cd/A)という非常に優れた効率を記録しています。
そして特に目を引くのが、この新しい量子ロッドLEDが放つ光の明るさです。
輝度は51万 cd/m²を超え、従来の量子ロッドLEDに比べて約3倍という圧倒的な明るさを実現しています。
これがどれほど明るいかというと、一般的なスマートフォン画面(およそ500〜1000 cd/m²)の数百倍という桁違いのレベルで、直視が困難なほどの強烈な輝きです。