しかし、この理想的とも言える特性を実現するためには、いくつかの難しい課題がありました。

特に難問だったのが、「鮮やかな緑色の光を効率よく発光させること」でした。

緑色はRGBの三原色の中でも非常に重要であり、人間の目が特に敏感な色です。

しかし、これまでの量子ロッドLED技術では、なかなか効率良く明るい緑色を発することができず、量子ドットLEDに比べて性能が劣る状況が続いていました。

そこで今回、香港科技大学(HKUST)のスリヴァスタヴァ教授らの研究チームは、「これまで不可能とされていた緑色発光の壁を突破し、理論的な理想を実際のデバイスで実現する」ことを目指しました。

一体彼らはどのような方法で、これまで超えられなかった難問を解決したのでしょうか?

世界最強の緑色発光LEDが実現

世界最強の緑色発光LEDが実現
世界最強の緑色発光LEDが実現 / 粒子表面のリガンド分子を、従来よりも短いものに置き換える工夫が描かれています。リガンド分子とは、粒子の表面を覆うことで、液体中で粒子を安定させる役割を持っています。従来の長いリガンドでは、粒子間の距離が広がり、電荷の移動が妨げられました。短いリガンドを用いることで、粒子同士の距離が縮まり、電荷がスムーズに移動する「通り道」が確保されます。図では具体的に、長さが異なる複数のリガンド分子を比較し、短い分子(例えばヘキシルフォスホン酸、ノニルフォスホン酸など)を使うことで粒子間距離が小さくなり、電荷の流れが改善される様子が視覚的に分かりやすく示されています。 さらに、研究では特にナフタレン基を含む特別なリガンド(ナフタレン-1-イルメチルフォスホン酸)を導入しています。これにより、単に粒子間距離が短縮されるだけでなく、芳香族化合物が持つ特有のπ電子系により電荷移動がさらに促進され、デバイス性能が向上する効果も得られました。 これらの材料設計と粒子表面処理の改善により、量子ロッドLEDは世界最高レベルの性能を実現し、明るさ、効率、安定性が飛躍的に向上したのです。/Credit:Highly Efficient and Stable Green Quantum Rod LEDs Enabled by Material and Charge Injection Engineering