黒坂岳央です。

近年、「スキマ時間は積極的に使うべき」という風潮が広がっている。通勤中や家事の合間など、耳が空いている時間を活用してオーディオブックやYouTubeでコンテンツを消費することが推奨されている。

だが、この習慣には見落とされがちな副作用がある。四六時中情報をインプットし続けることで、脳に過剰な負荷がかかり、結果として生産性が下がってしまうという本末転倒な事態が起こるのだ。

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現代社会に必要な「情報ダイエット」

現代人が1日に触れる情報量は、平安時代の人の一生分とも言われている。ネットに接続すれば、無限ともいえる情報が押し寄せてくる。かつては情報にアクセスできない「情報弱者」が問題視されたが、今や問題は逆だ。過剰な情報摂取により、脳が情報疲労を起こしている「情報過食者」が増えている。

とりわけ、ニュースサイトやSNSなどの無差別な情報摂取は脳に悪影響を与える。2020年のアメリカの心理学会の調査でも、ネガティブなニュースの継続視聴がストレスレベルを顕著に上昇させることが示されている。不安・怒り・嫉妬といった感情を煽る情報に長時間さらされることで、集中力や判断力が低下するのだ。

本来、脳は適切なインプットと休息を交互に行うことで、記憶を定着させたり、創造的な発想を生み出したりする。しかし、常に何かを聞き続け、見続ける生活を続けていると、脳は情報を処理しきれず、疲労感や集中力の低下、思考の鈍化といった症状を引き起こす。

人間の脳は、何もしていないときにも活発に働いている。これは「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる脳の機能であり、過去の出来事を整理したり、将来を予測したりする働きを持つ。ぼーっとしているときや、散歩中、入浴中など「何もしない時間」に活性化される。

ところが、この脳がバックグラウンドで活動するスキマ時間まで情報インプットで埋めてしまうと、この重要な機能が働く余地がなくなる。その結果、情報の整理や創造的な発想が妨げられ、長期的には生産性や思考力の低下につながるのだ。