この生物は、太平洋、大西洋、インド洋に広く分布しており、海流や風を利用して浮袋を帆のように膨らませ、海面を漂うというユニークな移動方法をとります。
日本近海でも夏場になると打ち上げられることがあり、注意喚起が行われることもあります。
さて、そんなカツオノエボシが「1種類ではないかもしれない」という仮説が持ち上がったのは、長年の観察から「地域によって微妙に形が異なる」「同じ海にいても交雑していない」といった現象があったためです。
とはいえ、これまではその違いが単なる変異の範囲内と考えられてきました。
ところが今回、国際研究チームはこの疑問を科学的に明らかにすべく、世界中から集めた151体のカツオノエボシのゲノム解析を行いました。
同時に、市民科学プロジェクト「iNaturalist」に世界中のユーザーから投稿された4,000枚以上の写真を用いて形態の分類を行い、遺伝的な違いと形態の違いを照らし合わせました。
カツオノエボシは1種じゃなかった!明らかになった「多様性」
分析の結果、これまで単一種とされていたカツオノエボシが、4つの異なる種からなるグループだったことが分かりました。
この4つの種とは、Physalia physalis(従来知られていた種)、Physalia utriculus、Physalia megalista、Physalia minutaです。
このうちのいくつかは、18、19世紀には別種として提案されたこともあったため、当時の考え方が正しかったと分かりました。
またPhysalia minutaは新しくオーストラリアやニュージーランド近海で確認された種です。

さらに、研究チームは海洋循環モデルを用いた解析を行い、これらの種それぞれが、地域の海流や風のパターンによって遺伝的に分断された「サブポピュレーション(地域集団)」を形成していることを突き止めました。