脱炭素化に向け再生可能エネルギーの利用拡大が進む中で、多くの企業がその対応を迫られています。とはいえ、「エネルギー」は自社に直接関係するテーマとして捉えにくく、どこから関わればいいのかわからないという声も少なくありません。

 そこで今注目されているのが、VPP(バーチャル・パワー・プラント)という新たな仕組みです。

 これは、原子力発電や火力発電等の大型の発電所とは異なり、分散型電源と呼ばれる太陽光などの再生可能エネルギー発電や蓄電池、電気自動車、また電力を利用する需要家側の行動変容等を通じて生み出されるエネルギーの調整力を束ねて、あたかも一つの発電所のように扱う仮想発電所のこと。このVPPにより生み出される新たなビジネスをERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)と呼び、エネルギーの世界に新たな“ビジネスロジック”が加わる転換点となった存在です。

 実はこのVPPこそ、電力を「使う側」だった企業が、「関わり、稼ぐ側」へと変化できるきっかけにもなり得るのです。再エネを自社の経営戦略の一部としてどう組み込むか——そのヒントを読み解きます。

再エネ普及に新たな選択肢。“デジタル司令塔”VPP

 前回の記事で、太陽光発電などの不安定な再生可能エネルギーが普及することにより、電力の安定供給の必要性が一層高まったことを紹介しました。

 2015年から行われた電力システム第五次制度改革以前は、旧一般電気事業者が主に自社の発電所の調整力を活用して、エリアの安定供給機能を担ってきました。しかし、電力システム改革の1つである発送電分離が行われたことに伴い、その調整力を日本全体で集めることで、いっそうの安定供給が実現するという観点から、電力の価値を細分化し、以前からある電力”量”(kWh)を扱う卸電力取引市場に加え、電力の供給力(kW)を扱う容量市場や、電力の調整力(ΔkW)を扱う需給調整市場が創設されました。これらの市場では、旧一般電気事業者以外の企業も要件を満たすことで取引に参加することができ、エネルギービジネスの拡大が進んでいます。

 ここでこれらの市場で取引を行う主体として注目を集めているのが、VPP(バーチャル・パワー・プラント)です。

“束ねて発電所の役割を果たす”、再エネ時代を支えるVPPの正体の画像1
(画像=『Business Journal』より引用)

 VPPとは、アグリゲーションコーディネーターを司令塔に、複数の事業者・設備とそれを束ねるリソースコーディネーターで構成される仮想発電所のこと。これまで大型の発電所が出力を制御することで担っていた安定供給の機能を、分散型電源や需要家の電力使用量の調整等により担う仕組みです。これにより、自家用発電機や蓄電池等の企業が保有する小型電源や家庭の“節電対応”等が取引の対象になります。

 アグリゲーションコーディネーターは、リソースアグリゲーターが発電事業者や需要家から集める調整力をもとに各種事業者や市場と取引を行います。

 たとえば、需給調整市場で「100」の調整力が必要とされている場合を考えます。このとき、アグリゲーションコーディネーターが「60」の調整力を用意できるとします。まずはその60を市場に提供するための入札を行い、入札に成功すると、リソースアグリゲーターに具体的な調整の指示を出します。たとえばA社に10、B社に20、C社に30といった形で、それぞれ指定されたタイミングで調整するよう依頼します。 リクエストを受けたA社、B社、C社は、リソースアグリゲーターと協調し、その日時で自社の調整力となる空調や蓄電池等を制御します。このように、アグリゲーションコーディネーターは、リソースアグリゲーターの協力を得ながら、集めた調整力を市場に提供します。つまり「市場との窓口」や「引き渡し役」としての役割を担っているのです。

 なお、リソースアグリゲーターが調達する調整力の対象はさまざまで、エネルギー関連企業に限らず、一般企業や家庭も含まれます。調整力のつくりかたも多様です。たとえば、太陽光や蓄電池の電力を出力することで供給量を増やすという方法もあれば、照明や空調の使用を抑えて需要量を減らし、電力の余力という形で調整力を提供するという方法もあります。また、蓄電池に電気を貯めることで一時的に需要を増やし、無駄になりそうな電力を活用するという調整も可能です。

 レジル株式会社はリソースアグリゲーターとしての役割も担っており、マンションに設置した蓄電池を制御することで調整力を生み出しています。