その理由は人生の中で「仕事」に意識が向くようになるからだ。若い頃はプライベートを充実させたり、友達と遊ぶことに興味があるが、一通り遊びを経験すると「自己成長、自己実現」「社会貢献、市場価値」といったテーマに興味が移る。

自分の所与の能力は変えることは不可能だが、使用する道具で気持ちよく仕事ができるなら、より良いものを使いたいという欲求は高まるのだ。

サラリーマンでも良いスーツや靴を買う、という人も増える年代である。これは見方によっては「自己投資」に近い属性があるが、直接仕事のパフォーマンスというリターンを高めるというより、「環境整備」に近い性質があるといえる。

情報や体験への出費も増える

そして中年になると「人生は経験と思い出を増やすゲーム」という本質に気づく。体験から吸収できる感受性も衰えることに気づき始めるタイミングが来るのだ。

そのため、お金はある程度確保し、とにかく体が動き意欲が消えないうちにいろんな情報や経験を稼ぐようになっていく。

筆者は30代前半までは「情報は無料でネットから得るのがコスパがいい」と考えていたが、今では遠方へ足を運んでできるだけリアルイベントに行くようにしている。昔は1年に1度だった家族旅行も頻度が格段に高まった。

外に出ることで家の中でインターネットばかり使う生活と比べれば、人生の充実度は格段に上がると感じる。もとい、中年になるとあらゆる受動的な娯楽にほとんど飽きてしまい、五感を刺激し、体を動かすダイナミックな経験を通じてビビッドに感性を動かすことがますます楽しくなってくる。旅行でも歴史や文化を理解することで、ただ観光地のランドマークを点で移動するだけだった旅行が移動中も意味を伴うエンタメになる。

「お金は価値交換券」とはよく言ったもので、ただお金だけを増やしたところで、使わなければ何の意味もない。あの世にお金を持っていけないのだ。

そして年を取ればお金を増やす、貯める力は自然と高まるが、使う力は減少していく。しかし、年を取っても…いや年を取ってからの方が楽しめる消費も存在する。本稿で取り上げたように使うべきはその領域だろう。