ホライモリの存在は数百年も前から知られていましたが、その暮らしぶりについては、主に飼育環境での観察に限られており、野生下での本当の姿は長らく謎に包まれていたのです。

そんな中、2020年にハンガリーとイギリスの研究チームが、ボスニア・ヘルツェゴビナのゴリツァ地区の洞窟で、個体ごとにタグを付けて長期的な追跡調査を開始。

そこで目撃されたのが、まさに信じられない「不動の生き物」の姿でした。

7年間でほぼ動かない?ホライモリが選んだ“究極の生き方”

この調査では、野生の26匹のホライモリに個体識別タグをつけ、8年間にわたって同じ洞窟で定期的に再捕獲して位置を確認しました。

その結果、多くの個体が約5メートル以内の同じ場所にずっと留まり続けていたのです。

とりわけ驚かされたのは、1匹のホライモリが2,569日(約7年間)にわたり、まったく同じ場所から動いていなかったという事例です。

画像
Credit: canva

もちろん、ホライモリには泳ぐ能力があり、本気を出せば数十メートルを一気に移動することも可能です。

にもかかわらず、実際にはほとんど動かなかった、その理由は何でしょうか?

まずひとつは「捕食者がいない」ことです。

洞窟内にホライモリを食べる生き物はいないため、逃げるための運動能力が必要がありません。

危険がなければ、エネルギーを消費してまで移動する必要はないのです。

またエサは水生昆虫や小型の甲殻類などですが、洞窟環境ではお互いに目が退化しているために、派手な狩りは行われず、エサが自分からそばにやってくるまで、ホライモリはひたすら待ち伏せ、機会が来れば一気に飲み込みます。

ホライモリは獲物が近くに来るまでじっと待ち伏せし、タイミングを見て一気に飲み込むという戦法をとります。

そのため、摂食のために移動する必要もほとんどないのです。

こうした理由から、ホライモリはエサがない間は代謝を限界まで落としエネルギー消費を抑えることで、数年間もエサを食べずに生きていける「省エネ生物」に進化したのです。