そして運悪く、サムの妻の受精卵に最初に辿り着いた精子は、消滅したはずの兄弟の細胞に由来するものだったのです。
結果、サムの妻はこの世に存在しないはずのサムの兄弟の子供を身ごもり、出産することになります。
従来型の遺伝子診断はキメラ体には向かない

今回の研究により、実の親子であっても血液型の不一致や父親鑑定の失敗が起こりえることが示されました。
人間においてキメラ体が生じる例は非常にまれであり、これまでで100例ほどしか知られておらず、さらに生殖細胞にまでキメラ症状が及んだ例はほとんど存在しません。
正確な診断結果が出るまでサム夫妻にとって動揺の続く時間でしたが、愛する人を信じ続ける心が最後には勝った稀有な例となるでしょう。
また今回の事例は、従来型の親子診断には一部、盲点が存在することが判明しました。
そのため研究者たちは今後、親子診断にはより慎重であるべきだと結論しています。
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参考文献
This Man Failed A Paternity Test Due To His Vanished Twin’s DNA
https://www.buzzfeednews.com/article/danvergano/failed-paternity-test-vanished-twin
元論文
A case of chimerism-induced paternity confusion: what ART practitioners can do to prevent future calamity for families
https://link.springer.com/article/10.1007/s10815-017-1064-6
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。