というのも、肌の色の混在は、1匹の体に2匹の遺伝子が混在する「動物のキメラ」によく表れる症状だったからです。
そこでベアード氏はサムを研究室に招き、サムの精子を調べることにしました。
結果、サムの精子の10%が、サムのものではなく、サムの兄弟にあたる存在の遺伝子を持つことがわかりました。
ベアード氏はこの時点で、サムの体が「キメラ体」であり、サムの生殖細胞の一部が、サムの兄弟の細胞に置き換わっていると考えました。
なぜそのような「キメラ体」にサムはなってしまったのでしょうか。
消えたはずの双子の細胞が睾丸で生きていた

全てのはじまりは、サムの母親が二卵性の双子を妊娠した時でした。
近年の研究により、単独の妊娠だと考えられていた事例の8分の1が多胎妊娠からはじまることが明らかになっています。
ですが1つを残して他は子宮に吸収されてしまうことが多いのです。
しかしサムの場合は異なりました。

胎児のとき、サムは何らかの方法で兄弟の細胞を吸収して、自分の一部にしていたのです。
結果、産まれてきたサムは、元々サムである体と、吸収されて消えたはずの兄弟の体が混在するキメラ体となったのです。
サムの肌が明確に色が違う暗い部分があったのは、その部分だけが吸収された兄弟の細胞に由来していたからです。

問題は、キメラ部分が肌だけではなく、精子を作る生殖細胞に及んでいた点にありました。
サムの生殖細胞がキメラになった結果、生産される精子もサム本人のものと、吸収された兄弟のものの2種類になってしまったのです。
