ブラヴァツキー夫人との邂逅と「呪いのダイヤ」
ジェイコブの名声は、オカルト界の最高権威をも引き寄せた。近代神智学の創始者であるマダム・ヘレナ・ブラヴァツキー。彼女がインドのシムラで起こした伝説の「カップとソーサー事件(何もない地面から、ピクニックに必要な食器を“出現”させた奇跡)」の場に、ジェイコブは目撃者として立ち会っていたのだ。これは、彼が当時のオカルト界の中心人物と深く繋がっていたことの何よりの証拠である。
しかし、そんな彼の人生は、一つの巨大なダイヤモンドによって暗転する。世界で7番目に大きいとされる「ジェイコブ・ダイヤモンド」。彼がこのダイヤをインドの藩王に売却しようとした取引が、詐欺容疑をかけられ、インド中を巻き込む大スキャンダルに発展したのだ。裁判の末、彼は無罪を勝ち取ったものの、この一件で莫大な富と社会的信用を失ってしまう。あれほどの奇跡を起こせた男が、金と権力が渦巻く世俗の陰謀には勝てなかったのだ。

歴史に刻まれた永遠の謎
晩年、すべてを失ったジェイコブはボンベイのホテルでひっそりと息を引き取った。だが、彼の伝説は消えなかった。ノーベル賞作家ラドヤード・キプリングの代表作『キム』には、シムラで骨董店を営む神秘的な賢者「ルルガン・サヒブ」が登場するが、この人物のモデルこそ、アレクサンダー・ジェイコブその人なのだ。
彼は果たして、本物の魔術を操る超人だったのか。それとも、東洋の神秘と西洋の科学知識を組み合わせ、時代そのものを欺いた史上最高のイリュージョニストだったのか。その答えは、今も歴史の霧の中だ。
結局のところ、この謎めいた男の正体が何であったにせよ、その存在自体が我々を惹きつけてやまない。アレクサンダー・マルコム・ジェイコブ。彼の物語は、我々が生きるこの現実世界にも、まだ解明されていない神秘が確かに存在することを示唆しているのかもしれない。
参考:Wikipedia、Mysterium Incognita、ほか
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