●この記事のポイント
・日建設計、日本政策投資銀行、DBJアセットマネジメントは既存ビルのエネルギーをゼロに近づけるリノベーション「ゼノベ」プロジェクトを推進 ・築古の既存ビルを環境改修してCO2排出量削減と不動産価値向上を両立 ・省エネにより水光熱費を削減、バリューアップにかかる改修費用を約3年で回収
日建設計、日本政策投資銀行(DBJ)、DBJアセットマネジメントの3社は、既存ビルのエネルギーをゼロに近づけるリノベーション、「ゼノベ」プロジェクト(ゼロエネルギーリノベーションプロジェクト)を共同で推進している。ゼノベは、築年数を経た既存ビルを環境性能の高い建物への再生し、二酸化炭素(CO2)排出量削減と不動産価値向上の両立を図るのが目的だ。第一弾となった日建ビル1号館では、ZEB化に伴うバリューアップ部分に約4,000万円の改修費を投じたが、省エネ化により年間約1200万円の水光熱費の削減が見込まれており、仮にその削減分をすべて改修費用に充当した場合、約3年での回収が可能と試算されている。さらに環境価値及び不動産価値の上昇により改修前の建物スペックでのマーケットレントと比較して、2~3割の賃料増加を見込んでいる。
この取り組みの背景には、「2050年ネットゼロ」がある。2050年までにCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることは、地球温暖化対策として世界的に合意された目標であり、各業界において様々な取り組みが行われている。不動産業界においては、2030年までに2013年度比51%のCO2排出量の削減がロードマップとして示されている。日建設計に取材した。
●目次
既存ビルの環境改修が現実的な選択肢
日建設計のゼノベプロジェクトのプロジェクトリーダー横瀬氏は不動産業界を取り巻くネットゼロ実現に向けた社会的背景について次のように説明する。
「不動産分野におけるCO2排出量は約18%を占めており、2030年までに2013年度比で約50%の削減を目指すロードマップが示されています。では、どのような建物がストックを占めているのかといえば、建物の築年数別ストックを見ると、築10年以上の建物が全体の約8~9割を占めており、ここが大きなボリュームゾーンとなっています。新築のビルに関しては、省エネやさまざまな環境性能向上に取り組んでいますが、ネットゼロの実現を目指すうえで、ストックの大半を占める既存ビルへの対応が不可欠です。」
新築への建て替えは、多くのCO2を排出するうえに、昨今の建設費高騰といったコスト面の影響も大きいため、現実的な選択肢とは言い難い。こうした背景から、既存ビルを対象とした環境改修こそが、ネットゼロ目標達成に向けた実行可能で有効な手段として注目されている。
ただ、改修による環境価値が十分に不動産評価に反映されない現状では、多くのビルオーナーが投資を躊躇するという課題があった。このような既存ストックに対して、どのようなアプローチが可能かを検討するために、2022年に前述の3社がアライアンスを組んだ。DBJとその子会社であるDBJアセットマネジメントは不動産金融の知見から、日建設計が建築技術の観点から改善策を提案を行い、環境と経済性の両立を目指して不動産マーケットにアプローチしていく。