つまり、薬物に手を出しやすいかどうかを決めるのは、環境や個人の意志だけではなく、生まれ持った脳の個性、あるいは成長過程で生じた脳構造の微妙な差異が関わっているかもしれない、ということです。

例えば、家族にアルコール依存症の人がいる子どもは、本人がまだ一度も薬物を使ったことがなくても、脳の前頭前野という部分が平均より薄い傾向があるという研究結果が出ています。

前頭前野は感情や行動をコントロールする「脳の司令塔」であり、ここが薄いことは、自分の衝動を抑える力が弱まることと関連していると考えられています。

さらに興味深いのは、こうした脳構造の特徴が双子や兄弟の研究でも確認されている点です。

双子の片方が大量にお酒を飲む場合、その兄弟も脳の特定の部分が小さくなる傾向があり、これらが生まれつきか、早い時期から存在する可能性が示唆されているのです。

こうした状況を踏まえて研究者たちは疑問を持ちました。

「薬物を使った結果、脳が変化して依存症になる」というこれまでのストーリーは本当に正しいのだろうか?

もしかすると、薬物に手を伸ばすずっと前から、脳の方に「薬物使用を引き寄せやすい構造的な違い」が存在しているのではないか?

もしそれが事実なら、薬物依存を防ぐための対策は、単に薬物を遠ざけるだけでなく、その前段階で子どもの脳の個性を理解してサポートする必要があるかもしれません。

今回取り上げるアメリカでの研究は、まさにこうした疑問に真正面から答えるために実施されました。

薬物を使用する前の子どもたちの脳を調べることで、薬物を使い始めるリスクがある子どもには、そもそも脳構造にどんな特徴があるのかを大規模に分析したのです。

本当に薬物を使用する子供たちの脳は使用する前から特別だったのでしょうか?

薬物に手を伸ばす子ども、脳に共通する「意外な特徴」

薬物に手を伸ばす子ども、脳に共通する「意外な特徴」
薬物に手を伸ばす子ども、脳に共通する「意外な特徴」 / Credit:Canva