●この記事のポイント ・NECの国産生成AI「cotomi」が、日本のAI業界に新しい潮流を生み出している ・高い日本語処理能力と高精度の応答、代表的なモデルと比べて2倍というレスポンス速度、オンプレミスでも動作する軽量設計が特長 ・業務活用を見据えた設計思想

「生成AIを導入したいが、日本語の理解が不十分」「社内データをクラウドに出せない」「使いこなせる人材がいない」――。ChatGPTの登場から1年余り、多くの日本企業がこうした悩みを抱えたまま、デジタル変革の壁に直面している。この状況を打開すべく、NECが2023年8月に本格展開を開始したNEC開発の生成AI「cotomi(コトミ)」が、日本のAI業界に新しい潮流を生み出している。高い日本語処理能力と高精度の応答、代表的なモデルと比べて2倍というレスポンス速度、さらにオンプレミスでも動作する軽量設計が、セキュリティ懸念から二の足を踏んでいた日本企業の背中を押している。この生成AIによって、製造業・金融業・医療をはじめとする領域で業務変革を生むNECに取材した。

●目次

企業の情報セキュリティポリシーや予算規模に応じた選択が可能

「ことばにより未来を示し、『こと(事・言)』が『みのる』ようにという想いを込めました」と、NECのAIビジネス・ストラテジー統括部エバンジェリスト・石川和也氏。

「cotomiは1960年代から60年以上続くNEC独自のAI研究集大成として、2023年に開発・提供開始した生成AIです」と熱意を込める。

 NECのAI開発の歴史は、郵便物の自動仕分けシステムに始まり、顔認証や指紋認証などの生体認証技術で世界トップクラスの精度を誇ってきた。石川氏は「実は2021年、別の用途で国内最大級のGPU群を備えたAIスパコンをすでに準備していました」と明かす。そこへ2022年のChatGPTブームが到来。「ダボス会議に参加した当社CEOとCDOが、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOとの対話から『日本市場向け生成AIに商機あり』と判断し、わずか半年でリリースしました」(同氏)

 cotomiの強みは、業務活用を見据えた設計思想にある。「クラウドが便利なのは間違いないが、リスクとコスト面で選択肢を持つべきだと考えました」と石川氏。オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドの3形態を標準提供し、企業の情報セキュリティポリシーや予算規模に応じた選択を可能にした。

「国産AI」の価値は、セキュリティだけではない。NECはグループ社員約11万人のうち約6万人がcotomiを実際に使用。その膨大なフィードバックを即座に開発に反映させる体制で、日本語固有の文脈理解や業界用語の習熟度を高めてきた。さらに、EUのAI法も見据えたガバナンス機能や、誤情報生成(ハルシネーション)の抑制技術も標準装備。「生成AIが『使えない』から『使える』フェーズに移行するには、精度と安全性、そして現場導入の容易さが決め手となります」と石川氏は強調する。

 すでに導入事例も多様化している。地方自治体においては、過去の議会答弁データをcotomiに学習させ、議員が数時間かけていた定型文書作成を自動化。「国産AIだからこそ実現できた成果」と評価された。この背景には、地方自治体特有の文書形式や慣習的表現を正確に理解できる言語モデルの必要性があったという。