例えば、2019/20シーズン、当時アーセナル所属だった元ドイツ代表MFメスト・エジル(2023年引退)の扱いもこれに近い。チーム内では当時のウナイ・エメリ監督(現アストン・ビラ)との関係が悪化したエジル。ピッチ外でも中国のウイグル族への迫害を批判したことで反発を招き、アーセナル戦の中国での放送が中止されたり、サッカーゲーム『プロ・エボリューション・サッカー2020』からエジルの名が削除されるなどといった影響があり、事実上の戦力外扱いとなった。

他にも、2007年からトッテナム・ホットスパーでプレーし、14シーズンにわたり公式戦214試合に出場した功労者元イングランド代表DFダニー・ローズ(2022年引退)も、2020年に契約延長を拒んだことでフロントは容赦せず“窓際”に追い込んだ。ローズはその状況に耐え続け、契約満了と共に2021年6月にワトフォードにフリー移籍した。

これらはロフティングと本質的に同じで、クラブが選手に圧力をかける手口として使われる。

フランスの場合は選手組合の力が強く厳格な労働法も存在するが、他国では同様の行為が慣習として黙認される場合も多い。つまり、フランスほど明確に「ハラスメント」として訴訟に発展する例は少ない。しかし、ムバッペの訴訟の行方が、サッカー界全体の規制強化につながる可能性がある。


キリアン・ムバッペ(パリ・サンジェルマン所属時)写真:Getty Images

フランスの選手組合が訴訟を起こしている背景

ムバッペの他にも、かつてPSGの女子チームでプレーしていた元フランス女子代表MFキーラ・ハムラウィ(2012-2016、2021-2023)が、2021年何者かに殴打された負傷事件後にチームから外され、退団を余儀なくされたとして、2023年10月にPSGをモラハラで訴えている。

また、2016/17シーズンにPSGに移籍した元フランス代表MFハテム・ベン・アルファ(2022年引退)は、ローラン・ブラン監督(2013-2016)の推薦もあって加入したものの、そのブラン監督が開幕直前に解任。期待された出場機会を得られないまま、契約満了を待って2018/2019シーズンにレンヌへと移籍した。この時のPSGの指揮官もウナイ・エメリ監督(2016-2018)だった。