まるで夜空が祝福するかのように、2つの「新しい星」が同時に、そして突如として輝き始めた。天文学者たちはいま、歴史的な瞬間に立ち会っているのかもしれない。肉眼で見えるほどの明るさを持つ「新星(ノヴァ)」が、2つ同時に観測されたのは、人類の記録史上、これが初めての可能性が高いというのだ。

ほぼ同時に現れた、青と紫の輝き

 最初の輝きが目撃されたのは、6月12日のことだった。南天の「おおかみ座」に、それまで存在しなかったはずの明るい星「V462 Lupi」が突如として出現。その星は、なんと通常の300万倍以上も明るさを増していたという。

 そして、天文学者たちの興奮が冷めやらぬ6月25日、今度は「ほ座」の方向に、2つ目の新星「V572 Velorum」が発見された。通常、今回のような恒星の大爆発である「古典新星」が肉眼で見えるほどの明るさになるのは、年に1つ観測できるかどうか、という稀な現象だ。それが、わずか2週間のうちに2つも現れ、同時に輝いている。これは、ほとんど前例のない極めて稀な天体現象だ。

 天文学者のスティーブン・オマラ氏は、「歴史的とまでは言わないまでも、これが極めて稀な出来事であることは間違いない。過去の記録をいくら探しても、2つの新星が同時に出現した例はまだ見つかっていない」と、その興奮を語る。

 2つの新星は、その光の色も異なる。V462 Lupiが美しい紫色を帯びているのに対し、V572 Velorumは鮮やかな青白い光を放っている。これは、新星が時間と共に色を変えていくためで、やがてどちらも赤みを帯び、数週間後には夜空から姿を消してしまう儚い輝きだ。

爆発の正体「新星」とは何か?

「新しい星」と書くが、本当に星が誕生したわけではない。新星とは、恒星の表面で起きる大規模な爆発現象のことだ。

 今回のような古典新星は、2つの星が互いの周りを公転する「連星系」で発生する。「白色矮星」と呼ばれる、小さく高密度な星が、パートナーであるもう一方の大きな恒星から、その重力でガスをじわじわと吸い込んでいく。

 そして、白色矮星の表面に降り積もったガスの圧力が高まり、限界点に達した時、核融合反応が暴走。凄まじい大爆発を引き起こし、溜め込んだガスを燃やしながら、強烈な光を宇宙空間に放つのだ。この光が、地球から見ると、まるで新しい星が突然現れたかのように見えるのである。

 星そのものが木っ端微塵に吹き飛ぶ「超新星(スーパーノヴァ)」とは異なり、新星爆発は星の表面だけで起きるため、白色矮星は生き残り、何十年、何万年という時を経て、再び爆発を繰り返すこともある。しかし、今回出現した2つの新星は、どちらも史上初の観測。次にいつ、この輝きを見せてくれるのかは誰にもわからない。

【歴史的瞬間】夜空に2つの“新しい星”が同時爆発!人類史上初か、奇跡の天体ショーが開幕の画像2
(画像=イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI))