3つのシーンで使いやすさを追求
──UIはどういった点にこだわったのでしょうか
具体的には三つのシーンを想定してこだわりました。一つは「使い始めの簡単さ」。せっかく会計ソフトを導入しても、最初に様々な設定をしなければならないことが大きなハードルとなり、ユーザーが離脱してしまう原因となっています。このため、できる限りシンプルで少ない手順で完了できるような工夫をしています。
二つ目は「導入後の簡単さ」です。日常的に利用されるシーンでも「いかに心地よく使ってもらえるか」にこだわりました。帳簿付けなど毎日行う作業の操作感について、細かい部分まで心地よさを追求しています。
三つ目としては「数値データの扱いやすさ」です。会計ソフトを利用することで様々な情報を集めることができるので、これをいかにお客様の経営に役立ててもらえるかが重要です。会計ソフトとして一番の価値を提供できる部分ですので、画面上の数値の見やすさや数値分析のしやすさなどを考慮しています。
──具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか
今回の開発プロジェクトでは、商品開発の担当者だけでなくデザインUI/UXデザイナーやリサーチャーなど、様々な役割の人間が一丸となって何度もディスカッションを繰り返しました。どういう顧客体験、どういうUIがあるべきなのかという点について、納得いくまで議論して製品仕様に反映しています。
また開発面では、アジャイル開発手法の一つであるスクラム開発を取り入れました。開発プロセスの早い段階でプロトタイプを製作し、このプロトタイプに対してお客様からフィードバックをもらって改善するというサイクルを何度も繰り返しています。特にUIのデザインについては、お客様から数多くのフィードバックをいただきました。そういったご要望に忠実に対応することで、製品を磨き上げることができたと思います。
AI活用でさらなる価値提供に繋げていく
──AIを活用した機能が追加されていますが、どういった部分でAIを活用していますか
会計ソフトを利用するにあたり、会計の専門用語の理解が必要になります。例えば書籍を購入したら、ソフトには「新聞図書費」という科目で入力しなければならないのですが、専門用語なので馴染みがなくわからないということも多いと思います。会計の専門用語ですので、なかなか馴染みのない方が多いと思います。こういったケースではAIを活用して、取引内容から自動で勘定科目を判別できるようにしています。
他にもAIを活用した資金予測の機能を追加しました。簡単に言うと過去3ヶ月間の現預金の情報から、その先3ヶ月間の現預金の推移を予測するという機能です。ここでもAIを活用しています。
今後は、特に経営支援に関する部分において、AIを活用していきたいと考えています。まだ具体的な内容はお伝えできる段階にはないのですが、積極的にAIの機能を取り入れていく予定です。
例えば、財務諸表の情報から問題や課題に関する情報を提示して、改善のためのアクションに繋げやすくすることを考えています。会計の情報からPLやBSなどの財務諸表を作成しても、そこからどんな問題や課題があるのかを読み解くのは会計知識の無い一般の方ではなかなか難しいと思います。ですので、AIが「御社は人件費率が高いことが問題です」「御社は仕入れ原価が少し高止まりしていることが利益低下の原因です」といった情報を提示するイメージです。
──会計分野以外にも勤怠や労務管理への機能展開が図られていますが、今後はどのように提供価値を広げていく予定ですか
当社では、中長期的にはバックオフィス業務の自動化を目標に掲げて取り組んでいます。会計だけでなく給与計算や労務管理を含めて、これらが相互にデータ連携して自動化できるような形を作り上げていきます。そしてお客様からのフィードバックを適時反映しながら、段階的にアップデートしていくことを試行しています。
当社の製品サービスの二つの柱として「業務の自動化」と「経営支援」がありますが、「業務の自動化」については自動化レベルのさらなる磨き込みをしていきます。また「経営支援」については、今回の資金予測がまず第一歩ですので、そこからいかに価値の拡充をしていくかを検討中です。当面はこの二本の提供価値をさらに大きくできるようにしていきたいですね。
中小・零細企業の経営改善のためには財務会計データの分析が不可欠だが、現状ではまだまだ活用できていない企業が多いと思われる。今回追加された資金予測の機能は、経営改善に向けた取り組みの第一歩を後押しするのではないだろうか。誰でも使えるUIを採用することによって、より多くの企業に対して経営改善に向けた気づきを与えることが可能になるはずだ。今後の「弥生会計 Next」の新たなサービスに期待したい。
(文=伊藤伸幸/中小企業診断士、ライター)