これは、「脳の新しい細胞を作り出す力」は生活習慣や環境、遺伝的な要因など、多くの要素によって影響を受けている可能性を示唆しています。
言い換えれば、脳が新しい細胞を生み出す力を高める方法が見つかれば、記憶力の衰えを防いだり、精神的な健康を保ったりすることができるかもしれません。
実際、アルツハイマー病やうつ病などでは、海馬での新しい神経細胞の誕生が著しく減少することが知られています。
もし脳の再生力を刺激して、新しい神経細胞の誕生を促すことができれば、これらの病気に対する全く新しい治療法の可能性が開けるかもしれません。
言ってみれば、「脳自身が持つ再生能力を最大限に活かす治療」が現実になる可能性があるのです。
とはいえ、今回見つかった新しい細胞の数は非常に少なく、まだまだ謎が残されています。
これら少数の細胞が脳全体の機能にどれほどの影響を及ぼしているのか、あるいは細胞の再生力を増やすには具体的に何をすればよいのか、といった疑問は解決されていません。
今後のさらなる研究が、この小さな発見を人間の脳の驚くべき可能性へと広げていくことでしょう。
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元論文
Identification of proliferating neural progenitors in the adult human hippocampus
https://doi.org/10.1126/science.adu9575
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部