インターネットの広大な海の底には、時折ふと浮上しては人々を騒がせる、幽霊船のようなUFO映像が存在する。今回、TikTokやYouTubeで再び注目を集めているのは、1994年のアゼルバイジャンで撮影されたとされる、あまりに古典的で、あまりに鮮明な「空飛ぶ円盤」の映像だ。

 下部には3つの球体がゆっくりと回転し、白昼堂々と空を移動するその姿。これは人類史に残る本物の記録なのか、それとも巧妙に作り上げられた壮大なフェイクなのか。30年近くにわたって専門家たちを悩ませてきた、ミステリーの核心に迫る。

ネットの海を彷徨う「完璧なUFO」

 この謎の映像は、あるアパートの一室から撮影されたように見える。カメラが捉えたのは、まさに我々が「空飛ぶ円盤」と聞いて思い浮かべる、完璧なフォルムの飛行物体だ。円盤の下部では、3つの球体、あるいは鐘のようなものがゆっくりと回転している。この特徴は、1950年代のUFO研究家ドナルド・キーホーの報告書や、UFOコンタクティとして知られるジョージ・アダムスキーが撮影したとされるUFOの形状とも一致しており、一部の研究家たちの興味を強く惹きつけている。

 かし、この映像の正体を追う上で最大の壁となるのが、その出自の曖昧さだ。かつては「1994年、ウルグアイで撮影」とされたが、映像に映る建物の様式やアンテナが当時のウルグアイとは異なり、東欧やバルカン半島のものではないか、と指摘された。その後もアルゼンチン、ロシア、ブルガリアと、その“出身地”は転々とし、現在ではGoogleマップとの照合から、アゼルバイジャン第4の都市、ミンゲチェヴィルではないか、という説が有力視されている。

 年代についても1994年説が有力だが、2003年頃にイタリアのテレビで放送されたものを録画した、という説もある。確かなのは、現存する最も古いオンライン上の記録が、2008年にロシアのYouTubeチャンネルに投稿されたもの、ということだけだ。