特に1997年に提唱されたジャルジンスキー等式などにより、「仕事量がゼロ以下となる確率には指数的な上限が課される」ことが示されています。
言い換えれば、小さな系では偶然によって一見第2法則を破るような「エネルギーをタダで得られる」可能性はあっても、それを永遠に続けることはできず、ラッキーの起こりやすさには厳密な理論的限界があるのです。
ただ理論的にはそうであっても、実験するまで確定しないのが物理学の世界です。
そこで今回研究チームは、この理論上の限界に迫るほど高い確率で「第2法則に反するように見える」事象を、実験的に再現できるか挑みました。
果たして、理論の限界を超えるような高確率で「第2法則を破ったように見える」現象を実現することは可能なのでしょうか?
「ほぼ毎回エネルギーがタダになる」――ナノマシンが見せた驚きの挙動

果たして、理論上の限界まで「第2法則を破ったように見える」現象を実験的に起こせるのでしょうか?
研究者たちは、この疑問を確かめるために非常に小さな装置を作りました。
それは「マイクロカンチレバー」と呼ばれる、髪の毛よりも細い板ばねのようなものです。
この板ばねはごく小さく軽いため、常に空気分子の衝突を受けていて、静かに見えても実際にはわずかに揺れ動いています。
イメージとしては、水に浮かぶ木の葉が絶えず波に揺られている状態に近いでしょう。
研究者たちは、この小さな板ばねのすぐ近くに電極を配置し、そこに電圧をかけることで、板ばねの動きを細かく制御できる仕組みを作りました。
具体的には、電極にかける電圧を変えることによって、板ばねを2種類の「振動状態」へと切り替えられるようにしたのです。
ひとつは、板ばねがほぼ真っ直ぐの位置で細かく安定して振動する状態、もうひとつは、少しだけ上に傾いた位置で振動するやや不安定な状態です。