ある日、船の上にいた人間の前に、一頭のシャチがやってきて、そっと魚の死骸を置いていきました。
「まるで猫が飼い主のもとに獲物を持ってくるみたいだ」。
研究者たちはそんな光景を何度も目撃し、ある仮説にたどりつきました。
「もしかして、シャチも人間に餌のおすそわけをしているのではないか?」
そして実際に、そんな驚きの行動が科学的に何件も記録されたのです。
カナダ・ベイセトロジー(Bay Cetology)の研究で、野生のシャチが人間に獲物を“差し出す”行動が、過去20年にわたり少なくとも34件確認されていることが明らかになりました。
研究の詳細は2025年6月の科学雑誌『Journal of Comparative Psychology』に掲載されています。
目次
- シャチから人間への「プレゼント」
- 利他性?遊び?それとも知的好奇心?
シャチから人間への「プレゼント」
この研究を行ったのは、カナダ、ニュージーランド、メキシコの国際研究チームです。
彼らは2004年から2024年の間に記録された、シャチが人間に獲物などを差し出す34件の事例を調査しました。
場所はカリフォルニア沖、ニュージーランド沿岸、ノルウェー、アルゼンチン沖など、世界各地の海にわたります。
差し出されたものは魚類やアシカ、クラゲ、海鳥、さらには海藻まで含まれており、18種にも及ぶバリエーションが確認されました。
しかもそのプレゼントの対象は水中にいるダイバーだけでなく、船上や岸辺にいる人にまで及んでいたのです。

注目すべきは、シャチたちが自発的に人間の前に獲物を持ち寄っていたこと。
人間側から近づいたり、餌付けをしたわけではありません。彼らは自ら接近し、目の前にそっと“贈り物”を落としていったのです。