顧客の製薬企業に近い場所に開発・製造拠点を構える

 米国の高関税政策で世界的に医薬品業界は影響を受けるとみられているなか、富士フイルムHDが2011年の段階からノースカロライナ州で工場の建設を進めてきた理由は何か。

「2011年参入当時からノースカロライナに拠点を有し、その地域でバイオ産業のエコシステムが良く機能していることを知っていました。また、当社は、事業参入当初から、顧客の製薬企業に近い場所、主要市場の欧米を中心に開発・製造拠点を構えることで、迅速かつ効率的な生産体制を構築し、顧客ニーズに柔軟に対応することを戦略としてきました。米国はバイオ医薬品の最大の需要地である一方、米国内でのCDMOによる生産能力は小さく、当社の戦略上、米国に設備投資を投じるのは自然な選択でした」

 米国の高関税政策による影響はあるのか。

「当社のノースカロライナの新拠点の商談が順調に進んでおり、米国関税の動きは短期的には、米国内で生産能力増強を進めてきた当社にとって追い風となっています。ただし、関税政策は一つの契機にすぎず、前述のとおり、当社は関税政策が話題に上る以前から米国への大型投資を進めてきており、需要地の近隣で不足している生産能力を補うという当社の施策が結果的に時流に合致したと考えています」

「Kojo-X」のアプローチが高く評価

 ノースカロライナ州の工場における製造分の受注は順調に積み上がっている。

「2021年に発表した第一次投資設備は、今年の第2四半期(10~12月)の稼働開始に向けて順調に準備を進めています。第一次投資で導入する大型細胞培養タンク(2万ℓ)×8基は全て、すでに発表したジョンソン&ジョンソングループのヤンセンサプライグループ、リジェネロンとの製造契約締結により、長期にわたって成約済みとなりました。昨年4月に発表した追加投資分(2万ℓ×8基)は、2028年の稼働を予定しており、順調に商談を進めています。

 当社のノースカロライナ州の工場は、高い生産性と各種認証取得実績(トラックレコード)があるデンマークの拠点と設計・設備、生産フロー、システムを共通化することで、拠点間の迅速な技術移管を実現するアプローチ『Kojo-X(コージョーエックス)』による設備増強です。高い品質を保ちながら建設リードタイムの短縮化を実現しています。ノースカロライナの新拠点の稼働前に、大型の受注をいただけたのは、我々の『Kojo-X』のアプローチが高く評価されたと考えています」

  富士フイルムHDは2030年度にバイオ医薬品受託製造事業の売上高を7000億円に引き上げる計画を発表しているが、今後のさらなる成長に向けた取り組みに衰えは見えない。

「まずは進行中の設備投資による生産能力増強と顧客の獲得を確実に完遂します。その上で、これまでイメージングや医療分野で培ってきたAIやセンシング等の独自技術をベースに、生産性向上を中心とした研究開発を自社の研究所で取り組み、差別化を図っています。

 2027年に、富士フイルム富山化学の工場内(富山県)に、当社国内初の大規模なCDMO拠点の稼働を予定しています。富士フイルム富山化学の医薬品(低分子医薬)の知見・技術と、当社バイオCDMO事業のバイオ医薬品の知見・技術を融合し、将来的な成長が見込まれる次世代の抗体医薬品である『ADC(抗体薬物複合体)』にも対応していきます」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)