●この記事のポイント ・富士フイルムHD、2011年にバイオ医薬品の受託製造事業に参入し、約10年で年間売上高2000億円規模に ・4月、米製薬大手との間で総額30億ドル(約4200億円)超の契約を締結したと発表 ・製薬会社の幅広いパイプラインを開発初期段階から商業生産まで一貫して支える「End-to-End」のサービスを提供

 米国トランプ政権が医薬品への関税導入の検討を進め、世界の製薬業界が大きな影響を受ける可能性が増すなか、早い段階から米国内に製造拠点を稼働させている富士フイルムホールディングス(HD)の存在感が高まっている。同社は2011年にバイオ医薬品の受託製造事業に参入し、約10年で年間売上高2000億円規模にまで急成長を遂げ、現在はバイオ医薬品の受託生産で世界4位に位置するとみられている。4月には米製薬大手リジェネロン・ファーマシューティカルズとの間でバイオ医薬品の受託生産について総額30億ドル(約4200億円)超の契約を締結したと発表。富士フイルムHDの米ノースカロライナ州の工場で生産する。同社は2030年度にバイオ医薬品の受託生産事業の売上高を7000億円にまで引き上げる計画を掲げているが、いかにして同社は短期間で同事業の世界的大手にまで上り詰めることができたのか。また、なぜ同社は競合他社に先駆けて米国における製造拠点稼働を進めて、結果的に米国政府による関税導入の影響を受けないかたちになりそうなのか。富士フイルムHDに取材した。

●目次

写真フィルムの製造で培った技術も活用

 バイオ製薬受託生産事業の急成長の背景には、どのような取り組みがあるのか。富士フイルムHDは次のように説明する。

「当社は2000年代前半における写真フィルム市場の急激な縮小を受け、主力であった写真フィルム事業からの大胆な事業構造の変革を実施しました。新規事業の創出の一環として、まだバイオCDMO(開発製造受託)市場の黎明期であった2011年にこの事業に参入しました。主要市場である欧米を中心にM&Aを活用し、対応モダリティ(抗体医薬品・遺伝子治療薬などバイオ医薬品の種類)も拡充してきました。

 今後の市場成長を見据え、2020年にデンマーク拠点での大型設備投資を決めて以降、自社設備への大規模な投資を次々と決めており、事業参入以来の累計投資額は、現在進行中の設備増強計画を含め、1兆円を超えています。顧客である製薬会社が立地し、バイオ医薬品の需要が大きい主要市場の欧米を中心に製造拠点を持ち、中小から大規模の製造設備を揃え、製薬会社の幅広いパイプラインを開発初期段階から商業生産まで一貫して支える、『End-to-End』のサービスを提供できるのが当社の強みです。

 細胞を扱うバイオ医薬品の製造は、小さな環境変化にも影響を受けるため、高度なバイオ技術に加え、品質管理技術を含むさまざまな技術や大規模な設備が求められます。当社は、M&Aで獲得した設備に加え、写真フィルムの製造で培った『一定条件下で同一品質のものを製造し続ける技術(一定条件製造技術)』や高度なプロセスエンジニアリング技術を応用することで、高い生産性を実現し、このバイオCDMO分野においても高い競争力を発揮しています」