すでに始まっている可能性も?

 この偽の真空崩壊は、理論上、量子トンネル効果などによって“偶然”始まる可能性もある。すでにどこかで始まっていて、光速でこちらに向かっているのかもしれない。

 また、ビッグバンの直後に形成された「原始ブラックホール」が、場を刺激して真空崩壊の引き金になる可能性も指摘されている。これらは太陽と同じ質量をたった一個の原子に圧縮したような天体で、極めて高密度かつ不安定だ。

 もしこうしたブラックホールがいまも存在しているなら、宇宙の自爆装置はすでに動き出しているのかもしれない。

それでも世界は続いている

 幸いなことに、今のところ私たちは生きている。これは、偽の真空崩壊がまだ起きていない、あるいは原始ブラックホールが存在していない証拠かもしれない。

 また、宇宙の膨張やダークマター、ダークエネルギーといった謎の物質が、真空崩壊を打ち消す働きをしている可能性もある。

 とはいえ、現時点では誰にも真実はわからない。そして、もし“その瞬間”が訪れるときが来るとしても、我々はそれを感じる間もなく、ただ消滅するのみなのだ。

 宇宙は私たちが思っている以上に不安定かもしれない。偽の真空崩壊という理論は、現実の延長線上にある科学的仮説であり、単なる空想科学とは言い切れない。日々、平穏に生きているこの世界が、実は“仮初の安定”の上に成り立っているとしたら──。

 その不安定さに気づいた瞬間こそ、科学のロマンが最も輝く時なのかもしれない。

参考:Daily Mail Online、ほか

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