事実上は民間の技術開発競争、日本の勝算は

 アメリカは40年代の商業化を目指し、中国も実験施設の建設を進めている。日本は国際競争に勝てるのか。あと何年で自宅のコンセントから「核融合で作られた電気」が使えるようになるのか。中原本部長に率直な疑問をぶつけたところ、「商用炉にはもう少し時間がかかるというのが正直なところ」と返ってきた。

「京都フュージョニアリングの立ち位置では、商用炉への展開を早めるために各社が取り組んでいないプラズマ”以外”の領域の開発を加速している。プラズマのところは“速いスピードで実現するプレイヤーと組んで実現したい”と考えている。

 一方で、FASTはこのプラズマと京都フュージョニアリングの領域をつなげるプロジェクトでもある。京都フュージョニアリングが技術開発に取り組む熱の取り出しから発電につなげるプロセスを組み合わせば、それが発電実証としては最速になるだろう。これが当社の考えるシナリオで、結果として2040年代にいわゆる商用炉まで持っていくことを目指したい。実現すれば、日本に産業を呼び込むことができ、国益にも貢献できると考えている」

気になる中国の追撃

 先月、中国が開発を進めている核融合実験装置「全超伝導トカマク型核融合エネルギー実験装置(EAST)」が、1億度の高温プラズマを1000秒間維持することに成功し、これまでの世界記録を更新したとのニュースが話題になった。EASTはITERの補完的な実験装置として、プラズマ制御技術や加熱方法、材料耐性の検証などを担当しており、将来的な商業用核融合炉につながる次世代実証核融合炉「CFEDR(China Fusion Engineering DEMO Reactor)」の開発にも直接つながると見られている。太陽光発電のときの苦い記憶があるだけに、多くの国にとって中国の存在は脅威に映る。

「基本的には、ITERが世界最先端の技術。中国の技術は進んでいるが、これはITERでの知見を活用したもの。中国は『BEST』という計画を発表しており、2027年にも新しいプラントができると発表している。ただ、中国の計画はサプライチェーンを含めて構築するという形になっているので、プラントを作るお金と意思があるところにサプライチェーンは全部寄っていく。日本が何もしなければ、核融合産業も中国やアメリカのものになる」

 昨年3月、核融合エネルギーの産業化を目指す「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会」(J-Fusion)が設立された。同協議会は、これまでのような学術としての核融合研究ではなく、それを実際に社会に活用するための取り組みを推進する。

 中国は国家予算で取り組み、アメリカには巨大な資金調達マーケットがある。日本は確かな技術力で調達するしかない。

(文=横山渉/ジャーナリスト)