国際プロジェクトITER、運用前に国家間競争へ

 核融合反応の原理自体は確立されており、実験レベルではエネルギーを取り出すことに成功している。しかし、持続的に核融合反応を起こし、商用レベルの発電に利用できるエネルギーを取り出すことはまだできていない。

 現在、国際協力プロジェクトであるITER(国際熱核融合実験炉)をはじめ、世界中でさまざまな研究機関や企業が実用化に向けた研究開発を進めている。

 ITERは2007年に国際機関が設立され、日本や欧米、中ロなど7つの国と地域が参画、フランスに実験炉が建設されている。これまで2025年の稼働開始を目標としてきたが、34年まで9年遅れると発表された。35年にも本格運用する予定で、その後の発電ができる原型炉は日本では50年頃に建設予定だったが、現在は前倒しが検討されている。

 核融合スタートアップである京都フュージョニアリングの執行役員経営企画本部長、中原大輔氏は「日本はITERプロジェクトにおいて最大の貢献国の1つ」と語る。ITERプロジェクトに関連したBA(ブロードアプローチ)活動として、核融合反応を長時間持続させるために、欧州と07年から共同開発してきた超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」でにおいて、それを支える主要機器などで、日本は技術的に存在感を示してきた。「JT-60SA」は量子科学技術研究開発機構の那珂研究所で2023年10月に稼働した世界最大級の実験装置である。

 ITERはあくまで実験炉であり、計画が順調に進めば原型炉(実際に発電ができるかテストするための炉)や商業炉へと続くが、建設までにはコストの他に技術的課題も山積している。そして何より、ITERが実現する手前で世界のプレーヤーが自国開発に舵を切ってきた。

「ITERに必要な機器については既に開発が終了しており、その知財は参加している各国が共通で持っている。機器開発でここまで進化したので次のフェーズに行ってもいいのではないかということで、アメリカやイギリス、中国などは、自国でこの事業を推進している。つまり、むしろここから先は民間及び産業の力を使って進めたほうがいいという考えだ」(中原本部長)

 核融合というエネルギー分野でも、国と国との競争が本格化してきた。

日本でも実証プロジェクト開始

 昨年11月、日本でも民間主導で核融合発電の実証プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」が始動した。国内外の多数の研究者や企業が参画しており、京都フュージョニアリングがリーダーとして立ち上げ、現在は新会社のStarlight Engine社が推進している。「核融合反応から熱を取り出し発電」という核融合エネルギーの早期実用化の鍵となる発電実証を、政府が掲げる2030年代に行うことを目指す。成功すれば世界初だ。

 核融合発電を実現するには、大まかに言って「核融合反応を起こす」工程と、その下流にある「熱をエネルギーとして取り出す」工程の2つが必要だ。プラズマを発生させて核融合反応を起こすことだけでなく、エネルギー変換や燃料の増殖分離など複数の技術が必須であり、それらが整わなければいわゆる発電はできない。ITERや海外のプロジェクトの大半は「核融合反応を起こす」工程の研究開発に注力している。

提供:京都フュージョニアリング
(画像=提供:京都フュージョニアリング)

 ITERや「JT-60SA」などで採用しているのは「トカマク型」と呼ばれる方式の核融合炉だが、真空容器には東芝、トロイダル磁場コイルには三菱重工や古河電気工業ほか、中心ソレノイドコイルには三菱電機や日鉄エンジニアリングほか、というように多数の日本企業が関わっている。

 京都フュージョニアリングが創業以来力を入れてきたのは「熱をエネルギーとして取り出す」工程で、その理由は核融合発電の産業としての広がりを考えているからだ。実際、プラズマ加熱装置であるジャイロトロンシステムを開発し、イギリスの核融合実験装置にも採用されている。

「核融合反応自体はすでに起こせているが、それを安定して効率よく持続させるようITERや各国の機関で研究している。また、トリチウムに関わる燃料システムのようにエンジニアリング技術としてとても重要な領域があり、その部分を当社では取り組んでいる」(中原本部長)

 核融合発電には超伝導コイルの技術が不可欠だが、リニアモーターカーを数十年にわたって開発してきた日本は、真空容器製造技術と併せて技術的に優位な立場にある。