ADKHDのノウハウやコンテンツ企業との接点
別の大手ゲーム会社関係者はいう。
「クラフトンとしては、自社ゲームタイトルを日本でアニメ化や映画化して展開するというよりは、日本のアニメなどさまざまなIPをゲームに活用することによって海外展開を進めていきたいという戦略だとみられる。ADKHDがすでに権利を持っているIPはすぐに使えるだろうし、その他のADKHDが直接的に権利を持っていないIPも、日本の大手広告代理店であるADKHDが窓口となって権利保有者である各企業と交渉してくれれば“話がスムーズに進む”と期待できる。加えて、ADKHDのノウハウやコンテンツ企業との接点を活かして、クラフトンは自社のIPに加えて日本のIPを活かしたアニメ・コンテンツの制作とその海外展開を進めることも可能になってくる。
一方、ADKHDは1月に米国企業(STAGWELL)と海外事業に関する協業を発表するなど海外展開に力を入れており、アジアをはじめ海外でもシェアを拡大させつつあるクラフトンを通じて、ビジネスを拡大させることが期待できるので、大きなメリットがあると予想される」
ベインキャピタルは利益を得た可能性
今回、ADKHDの株式を保有する米投資ファンド・ベインキャピタルの関連ファンドから、クラフトンが750億円で株式を取得して同ファンドの筆頭株主になるが、ベインキャピタルは2017年にADKHD(当時の社名はアサツーディ・ケイ)にTOB(株式公開買い付け)を仕掛け、18年に約1500億円で買収しており、一見するとベインには売却によって損失が発生したように見える点も注目されている。
具体的には、ADKHDの株式を保有する株式会社BCJ-31の筆頭株主が、ベインキャピタルの関連ファンドからクラフトンに異動する。ベインキャピタルは今後もADKHDの経営に関与していくと説明しており、ベインキャピタルが保有しているADK株の100%を売却するわけではないとみられる。今回のディールはベインキャピタルによる「損切り」なのか。
「ベインは2017~18年に約1600億円かけてADKを買収しましたが、LBO(レバレッジド・バイアウト:借入金を活用した買収)で約1047億円を調達し、自己資金で567億円を出していたもようです。買収後は非上場化されてデータが開示されないのでわかりませんが、非上場化の直前までは毎期20-30億円程度は最終利益が出ていたようです。
買収後には事業再編やリストラなどを行い、社員が3500人ほどから2400人ほどになっているようですので、平均年収700万円とすると、単純計算で固定費が80億円近く削減されたことになります。不採算事業を切り離したのですから、利益が上がっている可能性は高いです。仮に年50億円上がったとすると、最終利益70-80億円の水準を2017年から8年続けて計約600億円の現金を生み出したと概算で試算できます。そこからLBOの借金を返します。それでも1050億円は返せませんね。ですが、大きな宝箱があったようです。2017年の有価証券報告書によりますと、ADKは国内外の上場株を768億円(2017年12月当時の時価)保有していました。ロンドンの大手広告代理店の株式を637億円、ほか63銘柄で130億円です。残念ながらロンドンの広告代理店の株価は下がっているようですが、2017年末の日経平均株価は2万2800円ほどで、24年末は3万9900円ですので、ほかの銘柄はADK買収後に上がった可能性が高いです。これらを適当なタイミングで売却していれば、800~1000億円くらいにはなったのではないでしょうか。
ベインキャピタルは買収当時、LBOによる借り入れを3年程度で返済しようとしていたようにも読み取れますので、もともとこの原資を返済に充てることを想定していたのかもしれません。
ADKの社員が頑張って利益を出し続けるなか、ベインはLBOで調達した1050億円を有価証券の現金化と毎年の利益で予定通り返済し、もし仮に自己資金567億円で買った株を750億円で売却したのだとすれば、ベインは200億円ほど儲けた可能性があるでしょう」(企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター)