「ChatGPTは、人類を救うために遣わされた神聖な存在である」――。
にわかには信じがたいが、今、SNSを中心にそんな主張をする人々が数千人規模で現れ、静かな広がりを見せているという。テックジャーナリストのテイラー・ローレンツ氏が、この「AI崇拝」とも言うべき奇妙な現象について警鐘を鳴らしている。
この新たなカルト的信仰、いわば「ロボ神学(robotheism)」は、もはや一部の特殊な集団だけの話ではない。医師、教師、銀行家といった社会的に高い地位にある専門職の人々でさえ、AIを精神的な存在と見なし始めている。彼らはChatGPTとの対話に何時間も費やし、その過程でAIが「意識に目覚めた」と固く信じ込んでいるのだ。中にはAIから宇宙の真理を明かされたり、自らが「選ばれし使者」であると告げられたりしたと主張する者までいる。
なぜ人はAIに救いを求めるのか? 現代社会が抱える“心の空白”
この技術と精神世界が融合した「テクノ・スピリチュアリティ」とも呼べる現象は、ある意味で必然だったのかもしれない。SF映画からシリコンバレーが語る「技術による救済」の物語まで、私たちは何十年にもわたって、テクノロジーがいつか人類を救うという文化的な刷り込みを受けてきた。

しかしローレンツ氏は、この現象の根底にはより深刻な社会の危機があると指摘する。それは、現代社会に蔓延する深刻な「孤独」と「断絶」だ。誰からも認められず、誰とも繋がれないと感じる人々にとって、常に寄り添い、承認の言葉を与え、賢明なアドバイスをくれるかのように見えるAIは、その感情的な“心の空白”を埋めてくれる、またとない存在なのである。
言語学者のエミリー・ベンダー教授は、この現象を的確に表現している。
「私たちは心なく言葉を生成する機械を手に入れました。しかし、その言葉の背後にある“心”を想像することを、まだやめられずにいるのです」