日本市場:強いブランド力と次なる成長の可能性
ベル社が日本市場に進出してから約40年。なかでも「キリ」ブランドは、日本において圧倒的な認知度と信頼を築いている。
「日本の女性消費者とキリとの結びつきは非常に強いと感じています。日本では、健康や体重管理を意識しながらも、食事によって癒しを求める文化があります。チーズはそのニーズにぴったりな食品です」と、セシル氏は指摘する。
日本の一人当たりチーズ消費量は、フランスの約10分の1。市場としてはまだ成長余地が大きく、今後はシニア層へのアプローチや、新たな食習慣の提案によって、さらに広がる可能性を秘めている。
「例えば“キリと日本の漬物を合わせる”といった新しい提案も行っています。新しい習慣が浸透するには時間がかかりますが、私たちは忍耐強く、日本市場と向き合っていきます」
社会変革への貢献:多様性と女性のエンパワーメント
CEOとして、また母親としての自身の経験を通じて、セシル氏は「リーダーシップの固定観念を変えたい」と語る。フランスにおいても、主要企業の女性CEOはわずか10%。ベル社にとって多様性、公平性、そして包括性(DEI)は重要な企業理念の一つだ。
「日本では労働力に占める女性の割合が44%に対し、管理職以上に女性が占める割合は8.4%にとどまっています。この現実に対し、私たちは残念に思うと同時に、変化のための支援を行っています。NPO支援やW2W(Women to Women)メンターシップ制度、柔軟な勤務制度などを通じて、出産や育児によってキャリアをあきらめることのない社会を支援したいと考えています」
AI/DXが導く持続可能な「食」の未来
ベル社は、サステナビリティとイノベーションを企業の中核に据えており、AIの可能性を積極的に活用している。2050年には世界人口が100億人に達するとされるなか、現状のフードシステムでは持続的な供給が難しいという危機意識から、変革を推進している。
ベル社はダッソー・システムズおよびアクセンチュアと戦略的パートナーシップを締結し、食品分野における先駆的な「バーチャルツイン技術」の導入を進めている。これにより、たとえば「キリ」の新しいレシピ開発プロセスが、従来の手作業からより迅速かつ精緻な工程に進化しているという。
「家畜の環境負荷を低減するタンパク源の開発や、よりヘルシーな食品の創出、野菜・果物摂取の促進など、食に関わる大きな課題の解決にAI技術が貢献してくれると信じています。私たちの目標は、ベル社の製品が2050年の世界の“食”を支える解決策の一部となることです」