仮に2023年度の就業者の就業時間が1994年度並みであれば、一人当たり生産性は実績値より約17%高くなる。一人当たり生産性は、GDPを就業者数で割ることで算定されるものであるから、GDPが17%増加すると考えてよい。2023年度の名目GDPは590兆円であったが、ワークシェアリングがなければ690兆円になっていたということだ。日本経済の未活用労働力を顕在化させれば、それだけの力を発揮できる。

足りないのは需要である。今後十分な需要を確保できれば、ワークシェアリングの解消を通じて労働供給が実質的に増加し、成長軌道への回帰が可能となる。これが日本経済再生の「第一段階」となる。

しかし、一人当たり生産性が17%上昇したとしても、日本の生産性の水準は0ECD平均の86%に過ぎない。日本の労働生産性には、まだまだ向上の余地がある。

労働生産性の本格的な上昇が始まるのは、「第一段階」を経て、労働需給が真に逼迫してからである。そうなれば、実質賃金は漸く上昇に転じ、経済は所得の増加、消費の増加、企業収益の増加、設備投資の増加という好循環に入る。その過程で、企業サイドではAIの活用、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進、イノベーション促進、従業員のスキルアップ、中小企業の協業化など生産性向上への取り組みが加速するだろう。この「第二段階」において生産性はさらに向上し、実質賃金は持続的な上昇の軌道に乗るだろう。

今後の日本経済は「トランプ関税」などの影響もあり、これまで以上の逆風にさらされる。バブル崩壊以降、経済を下支えしてきた輸出への依存は難しくなる。

今必要なことは内需拡大と「意図せざるワークシェアリング」解消を突破口とした生産性向上である。そのためには需要サイドを中心としたマクロ経済環境の整備が不可欠だ。財源は存在する。日本の労働市場に眠る未活用労働力こそが新たな「財源」となる。