好きか嫌いかにかかわらず、人工知能(AI)は私たちの日常生活にすっかり溶け込んでいる。電動歯ブラシやシェーバーといった身近な製品から、ChatGPTのようなAIアシスタント、日々の運動を記録するスマートウォッチまで、多くの人が毎日何らかの形でAIに触れている。
AIは確かに私たちの生活を便利にしてくれる。しかしその裏側で、大量の個人データが収集されているという事実を見過ごしてはならない。時には私たちが気づかないうちに……。
これらのシステムは、収集したデータから個人の習慣や好みを特定し、さらには将来の行動までも予測することができる。AI時代におけるデータプライバシーの問題は、もはや他人事ではないのだ。
AIはあなたの「すべて」を知りたがっている:データ収集の巧妙な手口
AIツールが私たちの情報を集める方法は、実に多岐にわたる。
まず、ChatGPTやGoogle Geminiといった「生成AI」は、ユーザーが入力した質問や応答、指示のすべてを記録し、AIモデルの改良のために分析している。たとえ設定で「データを提供しない」と選択したとしても、個人データそのものは収集・保持されることが多い。企業はデータの匿名化を約束するが、後から個人が再特定されてしまうリスクは常に付きまとう。
一方、FacebookやInstagram、TikTokといったSNSは「予測AI」モデルを駆使する。投稿、写真、動画、「いいね」、コメント、さらには各コンテンツをどのくらいの時間見ていたかまで、あらゆる行動がデータとして集められる。そうして作られた個人の「デジタル・プロファイル」は、おすすめ機能の精度向上だけでなく、データブローカー(個人データを売買する専門業者)に販売され、他の企業があなたにピッタリの広告を届けるために使われる。
さらに、多くのウェブサイトは「クッキー」や「トラッキングピクセル」と呼ばれる技術を使い、サイトをまたいでユーザーの行動を追跡する。これが、一度検索した商品の広告が、まったく関係のないサイトや別のデバイスにまで表示される理由だ。ある調査では、ウェブサイトによっては300以上の追跡用クッキーが私たちのPCやスマホに保存されることもあるという。
「スリープ中」は安全? スマートデバイスがもたらす見えないリスク
データ収集は、私たちが能動的に何かを入力しなくても行われる。スマートスピーカーのようなデバイスは、常に情報を集め続けているのだ。
スマートスピーカーは、「OK、Google」や「アレクサ」といった起動ワード(ウェイクワード)を待つ間、常に周囲の会話に耳を澄ませている。一見するとスリープしているように見えても、実際には「聞いている」状態にある。企業側は「起動ワードが検出された時だけデータを保存する」と主張するが、誤って録音されてしまう懸念は拭えない。しかも、その音声データはクラウドに保存され、スマホやタブレットなど複数のデバイス間で共有される可能性がある。
このデータは、広告主やデータ分析会社、あるいは令状を持った法執行機関といった第三者に渡ることもあり得るのだ。
スマートウォッチやフィットネストラッカーも同様だ。これらのデバイスは健康に関する様々な数値を記録するが、その多くは米国の医療情報保護法(HIPAA)のような厳格な法律の対象外とされている。つまり、企業はユーザーから集めた健康や位置情報に関するデータを、合法的に販売できるということだ。2018年には、フィットネスアプリ「Strava」が公開した運動ルートのヒートマップから、世界中の機密性の高い軍事施設の位置が意図せず明らかになってしまう事件も起きている。