「AIによるニーズ掘り起し」と「業務効率化」で収益貢献を追求

 CRMシステムの再構築とマネジメント体制の転換の先に、同社は根本的なゲームチェンジを見据えているという。

「米国のCarMaxという中古車小売業者は、オンライン上で中古車販売を完結させています。消費者がパソコンやスマホの画面を通して中古車を選び、そのまま商談から契約まで行える仕組みが、米国ではもう出来上がっているんです。遅れを取っている日本において、当社はいち早くオンライン販売の環境を整えていきます。そうなれば、顧客情報の管理とニーズの掘り起こし、即応がよりスムーズになります。

 もちろん、当社のビジネスがどこまで行っても、現場で動く営業社員と、当社が仕入れている車という物理的な存在が主役であることは間違いありません。これを強力にサポートする力としてシステムを構築していくことが、当社におけるDXの1つのミッションです。

 そしてもう1つ、サプライチェーンのシステムもIDDの管掌です。当社の場合、中古車を仕入れてから販売するまでの期間をいかに縮められるかによって、収益が大きく変わります。というのも、中古車は1カ月でも売価が数万円下がるから。当社は数万台の在庫を保有しているので、全部を1カ月寝かせれば、億単位の評価損が発生します。つまり重要なのは、仕入れた車をいかに早く展示場に並べ、ホームページに掲載し、ひいてはご成約後の納車をいかに早めるか。こうしたマネジメントの効率化もまた、システムの得意分野なのです」

 効率化という部分では、同社が急ピッチで進める大型店の出店においてもシステムの活用は必須だと野原氏は強調する。大型店は中古車の在庫を大量に抱えるのと同時に、多くの人員が配置される。在庫を効率よくさばき、適切な場所・時間帯に過不足ない人員を配置して効率的に動けるようにしなければ、大型店を出店すればするほど評価損と人件費が増加することになりかねないわけだ。このように、猛スピードで規模を追う裏側ではそれを支える徹底的な効率化が求められ、そこにDXの大きな役割があると野原氏は考えている。そんな同社において、野原氏の考えるDXが業績への影響を及ぼしていくのは、いつ頃になると考えているのだろうか。

「今年中にCRMの新システムをリリースしますので、2026年2月期の第4四半期は、それをベースに事業が動き出します。新システムが導入されるのは当社の約460店舗のうち、約220ある販売メインの店舗です。つまり、第2四半期の売上高や利益の半分以上は、新システムを土台に上げたものになるわけです。

 それによって、店舗責任者の勘と経験と度胸、つまり小売業で言う「KKD」でやってきたものが、新システムによって可視化されていきます。それによってまず改善できるのが、営業社員のシフト組みです。たとえば、何曜日のこの時間帯はお客様の来店は少ないが購入意欲の高い方が多いとか、逆にこの時間帯は来客は多いがほとんどが見るだけなど、来客の傾向がシステムを通じて目に見えるようになります。それに応じたシフトを組むことで、人件費の適正化と売上アップにつなげることが、システムが業績に貢献する最初の道筋になると考えています」

 IDOM Digital Driveという社名には、車のドライブという意味に加えて、デジタルの導入にドライブをかけていくというダブルミーニングがかかっているという。野原氏はこれに、IDOMという会社にデジタルの力でドライブをかけていく、という独自の解釈を加える。中古車市場という労働集約型かつモノの動きを伴うクラシカルな世界に、システムという資本装備によるデジタル化がいかに変革を起こしていくのか。それによって業界地図はいかに変動し、消費者である我々の体験や行動は、どう変わっていくのか。目が離せない数年間が、すでに始まっていると言えそうだ。

(文=日野秀規/フリーライター)