メタの焦り
もしラベリングデータが必要であれば顧客としてスケールAIから購入すれば済む話だが、なぜメタは2兆円も出資するのか。
「メタが正式に発表しているわけではありませんが、主目的はワン氏を自社に引き入れることだといわれています。メタは今月にAI搭載スマートグラスの最新の研究用グラス『Aria Gen 2』の詳細を発表したようにAI搭載スマートグラスに力を入れていますが、画像のみならず映像データや3次元世界のデータもラベリングしていく必要があります。そして、ラベリングに特化した会社へのニーズは今後高まってくるため、メタとしては、高い技術力を持つスケールAIを自社で抱えることによって競合他社に対して有利に競争を進めていく狙いがあるのかもしれません。
メタの焦りもあるといわれています。これまではLLMの世界においてはOpenAI、グーグル、Anthropic(アンソロピック)、メタが上位4位と位置づけられてきましたが、メタが今年リリースしたLlama(ラマ) 4がベンチマークのテスト結果は良い数値であるものの、あまり実用的ではないということでいまいち評判が良くなく、現在はメタを除いたかたちで上位3社という言われ方をされています。そうした状況のなかでワン氏を取り込むことで挽回したいという思いもあるのかもしれません」(湯川氏)
メタの競合他社は警戒
今回のメタの動きは、AIの領域にどのような影響・変化を与える可能性があるのか。
「19歳のときにスケールAIを創業して成功し天才と扱われてきたワン氏が、メタのスーパーインテリジェンス部門の責任者に就いて次世代AIモデルの開発をリードすることになり、メタがどんなモデルを開発してくるのかというのが業界的にはもっとも注目されている点です。一方のワン氏もスケールAIの社内向けのメッセージで、自分にとっては一生に一度のチャンスなんだというようなことを言っており、ラベリングというAIの世界では傍流の部分ではなく、本流のAIモデル競争の分野でグーグルやOpenAIと戦いたいという思いもあるのではないでしょうか。
一方、他社からすれば、事実上メタの傘下となったスケールAIと情報やデータの受け渡しをすると自社の情報がメタに流れてしまうのではないかと警戒するでしょう。グーグルはスケールAIとの取引の見直しを検討するとの報道もありましたが、メタの競合他社が今後、他にラベリングの会社を探すのか、もしくは自社でやっていくのかという動きが注目されます。ラベリングの領域をめぐって新しい競争が生じる可能性もあります」(湯川氏)
前述のとおりワン氏は若くしてビリオネアになったわけだが、AIの世界ではこのように若いうちに大きな成功を収めて莫大な資産を築く事例は今後、増えていくと考えられるのか。
「今の時代は、自力で巨額の資産を築く方法は、自分で起業して上場するか、ストックオプションを得るというような株に起因するケースが大半なので、あり得るかもしれません」(湯川氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯川鶴章/エクサウィザーズ・AI新聞編集長)