研究を社会実装するための課題とは?
研究成果の社会実装における最大の課題の一つは、「共に経営を担う経営者を見つけられないこと」だと藤本氏は指摘する。また、研究者のマインドセット自体が社会実装に向いていない場合、例えば社会実装に意識が向きにくい点や、論文業績だけに注目する研究者も多い点も課題であるという。
さらに藤本氏は、「SaMD(Software as a Medical Device/医療機器としての機能を持つソフトウェア)を含む医療機器の領域では、高い時価総額での上場が難しい現状があり、売上や利益がなくても上場できる側面があるため、会社として成立する状態についての議論が不足している」との課題を挙げる。ヘルステック領域でも、過去のいわゆるヘルスケアバブルを経て資金調達やバリュエーション(企業価値評価)に課題が生じており、具体的な資金流入や収益化の道筋についての議論が必要だと強調する。研究やプロダクトの素晴らしさだけでなく、事業として成り立つこと、会社として機能することの重要性を藤本氏は繰り返し述べている。
また、多くのセッションを準備する藤本氏に「良いセッションとは何か」と聞くと、「登壇者とスタッフが共に学び、参加者が実利を得て行動に移せるようなもの」だとの考えを示す。成功者や著名人を招いてトークセッションのみを行うイベントも散見されるが、「昔話・過去の栄光的な話や抽象的な話ではなく、現在苦しんでいる人のリアルな声や失敗談を共有できる場を提供し、テーマに目的があれば”有名人”かどうかに焦点を当てる必要はない」という。
IVSの役割と影響力
IVSが日本のスタートアップエコシステムに対して果たす役割や与えている影響について、「IVSがなければ生まれなかったビジネスや資金調達があるという点で、一定の役割を果たしている」と藤本氏は見解を述べる。特に、「ネームバリューが現状は低い人でも登壇できる機会を多く提供している点で、他のビジネスカンファレンスよりも積極的であり、若手のチャレンジを応援し、失敗を許容する文化を醸成する上で重要だ」と指摘する。
藤本氏は、IVSに初めて参加する人に対し、「様々なセッションをかいつまんで見るという方法もあるが、1つのゾーンに1日中じっくりと時間をかけて参加すること」を推奨する。そうすることで、各セッションの目的や差分を理解し、業界全体の課題感などを深く学ぶことができるからだという。IVSへの参加を検討している人は、開催期間中に何を得たいかという目的を明確にして訪れることが大事になるといえる。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)