しかし、この男児は、日々の生活に事欠かない貴族の出であるにもかかわらず、その短い生涯は明らかに健康的ではなかったようなのです。
貴族特有の習慣が「日光不足」を招いていた?
研究チームは2022年に、男児の死因を解明するべく、CTスキャンを用いたミイラのバーチャル解剖を実施。
その結果、肋骨に栄養失調、それも「ビタミンD欠乏症」の典型的なパターンである奇形の痕跡が発見されました。
この症状は「くる病」と呼ばれ、ビタミンDの不足により、骨の石灰化が阻害され、強度が弱くなる病気です。
くる病はよく、足の骨のわん曲としてあらわれますが、男児の足に異常はありませんでした。
加えて、男児の肺を見ると、ビタミンD欠乏症の乳児に見られる「致死性の肺炎」の兆候も見つかりました。
くる病は必ずしも致命的な病気ではないため、こちらが直接的な死因となったようです。

脂肪組織の分析から、この男児は、同年齢の幼児と比べると、かなり肥満気味であることが判明しました。
そのことから、(お乳など)栄養源の摂取は十分にできていたと思われます。
ところが問題は、貴族生活に特有の「日光不足」にあったようでした。
ビタミンDは、食べ物から十分量を摂取できるものではなく、日光の紫外線を浴びることで、自然に皮膚上で産生されます。
しかし、当時のヨーロッパ貴族社会において、肌の白さは高貴さの証であり、貴族たちは陶器のような肌の白さを保つために、積極的に日光を避けていました。
その貴族ならではの習慣が、皮肉にも、小さな命を死に追いやってしまったのです。
その後、19世紀に入り、くる病が西欧で大流行した際に、ようやく「骨の形成に日光浴が重要である」ことが理解されています。
