毎日何気なく流している「おしっこ」が、骨や歯を修復する高価な材料に変わるかもしれません。

アメリカのローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)の研究チームは、、遺伝子操作を施した特別な酵母が、人の尿から「ハイドロキシアパタイト(HAp)」という生体材料を作り出すことに成功したと報告しました。

将来的には、街の下水処理場が“医療材料の工場”として機能し、お金を生み出す日が訪れるかもしれません。

研究の詳細は、2025年5月6日付の科学誌『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  • 遺伝子組み換え酵母が「尿から高価な物質」を生成する
  • 「骨酵母」によっておしっこがお金になる

遺伝子組み換え酵母が「尿から高価な物質」を生成する

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骨や歯の修復素材となるハイドロキシアパタイト(HAp) / Credit:Canva

ハイドロキシアパタイト(HAp)は、骨や歯の主成分であり、医療現場では骨や歯の修復材として広く使用されています。

人間や動物では、骨を生成する特殊な細胞「骨芽細胞」が、体内でカルシウムとリンを集めてHApを生成しています。

しかし、このHApを人工的に作ろうとすると、同じような条件を再現するのが難しく、細胞を使った製造には時間と費用がかかります。

そのため、HApは高価な素材として扱われています。

そんな中で注目されたのが、酵母という身近で育てやすい微生物です。

今回の研究では「サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)」という酵母に着目しています。

この酵母は骨芽細胞とよく似た働きをし、周囲の環境からミネラルを回収して蓄える能力があります

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遺伝子組み換えによって作られた酵母「Osteoyeast」/ Credit:LBNL

そこで研究チームは、この酵母の遺伝子組み換えに着手。

尿に含まれるカルシウムとリンを取り込み、ハイドロキシアパタイト(HAp)に変換されるよう設計しました。