トランプ大統領はこの動きを暴動だと断じて、「法と秩序の回復」を主張し、合計2,000人ほどの州兵を投入した。反トランプ陣営はこの動きを不当な弾圧だとして、米国の他の都市でも抗議活動を展開した。その結果、この種の抗議の暴力化には反対する一般国民の間でも州兵投入という措置自体への抗議が広まっているかのような構図が主要メディアなどにより描かれていた。

米国の州兵は平常状態では各州の知事の指揮下にあるが、内乱や暴動その他の有事の際は大統領がその動員を決める権限が法律で認められている。実際に1992年のロサンゼルスでの人種暴動や2001年の同時多発テロでの混乱、さらには2020年の白人警官による黒人犯罪容疑者殺害への各州での抗議の拡大などの際は大統領の命令で州兵が治安確保のために動員された。

ラスムセン社の今回の調査ではトランプ大統領の不法移民対策に対して支持を表明したのは共和党支持者では79%、民主党支持者は26%、無党派が43%という結果が出た。同様に不支持を表明したのは共和党支持者で11%、民主党支持者が60%、無党派が43%だったという。

しかし同じ調査によると、トランプ大統領のロサンゼルス地区への州兵投入に対しては共和党支持者の84%、民主党支持者の35%、無党派の54%が支持を表明した。

ロサンゼルスへの州兵投入への人種別の態度では、白人の55%、黒人の56%、ヒスパニック系の60%、アジア系などその他の少数民族系の65%が賛成を表明したという。非白人の間でも州兵投入には賛成が多いという、やや意外な結果が出たわけだ。やはり地域社会の治安の維持への願望が人種の別を越えて強いのだともいえようか。

だから、このラスムセン社の最新の全米世論調査でみる限り、「トランプ大統領の州兵投入への反対が米国全体で広まった」という主張は根拠がないことになる。

古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。