立ちはだかる「現実の壁」と専門家からの反論

 もちろん、誰もがこの楽観的な未来像に同意しているわけではない。多くの学者や専門家は、カーツワイル氏の予測に懐疑的だ。

 ノーベル賞を受賞した生物学者ヴェンキ・ラマクリシュナン氏は、「老化は単一の原因で起こるのではなく、無数の生物学的要因が絡み合った非常に複雑な問題だ」と指摘する。テクノロジーのように明確なステップで改善できるものではない、というわけだ。動物実験で老化を遅らせることに成功しても、それを人間に応用するのは全く別の話だと考える専門家も多い。

技術格差という最大の課題

 仮に2029年に技術的なブレークスルーが起きたとしても、もう一つ大きな壁が立ちはだかる。それは、社会経済的な「格差」だ。

 遺伝子治療やナノボット(超小型ロボット)による治療といった最先端技術は、間違いなく高価なものになるだろう。誰もがその恩恵を受けられるとは限らない。現に、治療法が確立されている結核でさえ、医療へのアクセス格差によって、世界では今も年間100万人以上が命を落としている。延命技術が、一部の富裕層だけの特権になってしまう可能性は、決して無視できない問題だ。

 カーツワイル氏自身も、この技術が事故やがんといった病気による死をなくすものではないと認めている。彼が予測するのは、魔法のような不老不死の実現ではない。あくまで、2029年が「医療の進歩が老化を上回り始める転換点」になるということだ。

 もし彼の予測が現実となれば、2030年代には、私たちの「老い」や「死」に対する考え方は、根本から変わっているかもしれない。人類は今、SFの世界が現実になる、その入り口に立っているのだろうか。

参考:Daily Mail Online、ほか

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