かつてiPhoneの登場を正確に予言した著名な未来学者、レイ・カーツワイル氏。元Googleの技術責任者でもある彼が、今度は人類史上最も衝撃的なブレークスルーについて、具体的な日付を挙げて予測し、世界に衝撃を与えている。そのテーマとは「死の克服」だ。

 カーツワイル氏は、テクノロジーと人類の未来に関する大胆な予測で知られてきた。そして今回、彼が「その日」として示したのは、わずか数年先の「2029年」である。

医療の進歩が老化を追い越す「長寿脱出速度」

 カーツワイル氏が予測の鍵として挙げるのが、「長寿脱出速度(Longevity Escape Velocity)」という概念だ。これは、医療技術の進歩のスピードが、人間の老化のスピードを上回る時点を指す。

 この状態に達すると、1年歳をとる間に、科学の力で寿命を1年以上延ばせるようになる。つまり、理論上は老衰による死を無限に先延ばしにできるかもしれない、というのだ。もちろん、これは「不老不死」を約束するものではない。しかし、少なくとも「老い」が死の直接的な原因ではなくなる時代の到来を示唆している。

なぜ「2029年」なのか?予測を支えるテクノロジー

 では、なぜカーツワイル氏はこれほど大胆な予測をするのだろうか。その根拠は、AI、ナノテクノロジー、そして生物工学といった分野の指数関数的な成長にある。

iPhoneの登場を予言した天才「人類が死を克服する日」を語るの画像2
(画像=レイ・カーツワイル氏Photo by null0(CC BY-SA 2.0)Wikimedia Commons)

 彼は近年の目覚ましい技術進歩を具体例として挙げる。例えば、新型コロナウイルスのワクチンは、ウイルスの遺伝子配列が解読されてから、わずか2日で設計が完了し、10ヶ月後には実用化された。これは、AIによる膨大なシミュレーションが可能にした成果だ。

 さらに、特定の遺伝子を狙って修正する「CRISPR(クリスパー)」と呼ばれる遺伝子編集技術は、遺伝性の疾患治療で実用化が始まっている。AI創薬の分野でも、Google傘下のDeepMind社がタンパク質の立体構造を予測する難問を解決し、創薬プロセスを革命的に加速させつつある。カーツワイル氏は、こうした技術の融合が、老化という複雑な現象の克服を可能にすると考えているのだ。