店名そのものに「野菜」を想起させるワード
飲食店経営者の視点からみて、なぜ「しゃぶ葉」は人気が出ていると考えられるか。
「先行ブランドである『しゃぶ菜』や競合ブランドである『しゃぶしゃぶ温野菜』にも共通するポイントですが、店名そのものに『野菜』を想起させるワードが入ることは実に象徴的です。手軽に多種の野菜をたっぷり取れる料理としてのしゃぶしゃぶを求めて多くの人々が集まるための仕掛けが随所に施されています。豚バラのみのコースであっても、野菜のほうがむしろ主役と捉えれば、満足度は跳ね上がります。
ただしそうなると、ひとつ問題があります。そのようなしゃぶしゃぶであれば、家でも手間なく簡単に調理できてしまい、なんなら安いだけでなく、おいしさも家庭のほうが簡単に上回ります。しかし、それを解消するのが豊富な選択肢。6種類用意されたなかから最大4種まで選択できる鍋つゆに加え、タレや薬味を組み合わせれば、バリエーションは無限ともいえます。これはさすがに家ではなかなか真似できません。味自体は正直、いかにもファミレスチェーンらしく、わかりやすいおいしさを追求したものですが、白だしやポン酢、胡麻ダレといったベーシックなアイテムに関しては、高級な専門店にやや寄せたような抑制の利いた味になっており、上質の肉を求めて高額コースを選択するようなグルメ層にも不満を与えないような仕組みになっていると感じました。
何より、ここでは『自分の意思で味を選択して組み合わせる』というある種のアトラクション性が最重要です。わたあめやワッフル、プリンなどの『セルフで作るデザート』も、子どもたちのハートをわし掴みにしているようです。しゃぶしゃぶと言いつつ主役は肉よりも野菜であり、しゃぶしゃぶ店と言いつつその本質は『体験型アトラクションレストラン』。これが『しゃぶ葉』の人気の秘密なのではないでしょうか。また、そのことは、食べ放題でありつつ、原価の高い肉ばかりが無闇に食べられてしまうことも自然にある程度防ぎ、経営面でもメリットが大きくなっているのではないかと思われます」(稲田氏)
専門店としてのポテンシャルの高さと使い勝手の良さ
では、客として「しゃぶ葉」の魅力を最大限に堪能する方法とは何か。
「ランチタイムであれば1500円台から利用できますから、午後からの仕事に差し支えない、極めてヘルシーなランチとして使い勝手が良さそうです。家族、特に三世代で集まるような場であれば、まさにそれが『しゃぶ葉』の真骨頂でしょう。ひとつ鍋を囲みつつ、実はそれぞれが全く違う好みの味を楽しんでいるというのは、少し不思議で幸せな光景です。デザートコーナーは子どもたちにとっても楽しい思い出となることでしょう。
そして見逃してはならないのは、純粋に専門店としてのポテンシャルの高さと使い勝手の良さです。しゃぶしゃぶ・すき焼きの専門店は、普通なら高級店であることがほとんどです。値が張るのみならず、予約前提であったり一人で利用しにくかったりといった難点もあります。それが『しゃぶ葉』の高額コースであれば、同等のクオリティとまではいわないまでも、それにある程度近いものを格安といっていい価格で気軽に楽しむことができます。このような店は、実はたいへん貴重です。わざわざ遠くから足を延ばすほどではないかもしれませんが、生活圏内にあれば、日々の暮らしがグッと豊かになりそうです。
その観点であえて要望があるとするならば、昆布だしのみの鍋つゆ、甘さを抑えた割り下や胡麻ダレ、うま味控えめのポン酢など、『高級店仕様』のアイテムも欲しい。有料でちょっとした一品料理も。しかしそれが『しゃぶ葉』の本分でないのは私もよくわかっていますから、もちろんそんな馬鹿げた要望は無視してください。そこは『豊富な選択肢』を利用して、自力で何とか工夫しますので! そしてそんな工夫が楽しめることも当然『しゃぶ葉』の楽しさであり、高級店並みのポテンシャルを秘めていることの証ですから……」(稲田氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長)