イスラエルに奇襲テロ(2023年10月7日)を行ったパレスチナ自治区のイスラム過激テロ組織「ハマス」はイスラエル軍の報復攻撃で指導者は殺害され、ほぼ壊滅寸前だ。レバノンのシーア派武装組織「ヒズボラ」の最高指導者ナスララ師は昨年10月、イスラエル軍に殺害された。一方、イランがロシアと共に軍事支援してきたシリアのアサド政権は昨年12月、崩壊し、2代にわたり半世紀余りを君臨したアサド政権は消滅した。すなわち、イランが巨額の資金と軍事援助をしてきた反イスラエル包囲網は現在、存続の危機、ないしは無力化しているのだ。イスラエルがイラン攻撃でハマスやヒズボラといった武装組織の大規模な反撃を懸念する必要は少なくなった。
イスラエルは中東ではイスラム国家に包囲された小国家だ。どこをみても反イスラエルを掲げている。それがトランプ米大統領の一期目、アラブ諸国でイスラエルと国交を樹立する国が出てきた。その背後には、米国からの圧力もあったが、イスラエルの最先端科学技術を土台として経済力に関心が高まってきた事がある(イスラエルは、1979年にエジプト、94年にヨルダンと平和条約を締結、2020年にはUAE=アラブ首長国連邦、バーレーン、スーダン、モロッコと国交正常化に合意した)。
中東のカギを握るサウジアラビアとイスラエルの関係が正常化するならば、中東の治安は一段と安定する。ガザ紛争とイラン攻撃でサウジ側はイスラエルとの関係正常化に躊躇する姿勢を見せているが、両国の国交回復はもはや時間の問題だろう。イランはシーア派の代表国だ。一方、サウジはエジプト共にスンニ派の盟主だ。シーア派のイランが核兵器を製造することを最も警戒してきたのはサウジの実質的最高指導者ムハンマド皇太子だ。その意味で、イスラエル軍のイラン核関連施設破壊は願ってもないことだ。
イ ランの同盟国ロシアと中国の動きだが、ロシアにはイスラエルを批判したとしてもイランに具体的な軍事支援はできないだろう。ロシアとイラン両国は長い間、軍事協定の締結を目指してきたが、ロシアの北朝鮮との軍事協定のように、相互軍事支援という内容はない。例えば、ロシアと北朝鮮は昨年6月、一種の軍事協定に「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。この場合、北朝鮮が他国から攻撃された場合、ロシアは北側の防衛する義務がある。一方、イランがイスラエル軍の攻撃されたとしても、ロシアにイランを軍事支援しなければならない義務事項はない。ただし、ロシアにとって無人機供給国のイランがその能力を失うことだけは回避したいはずだ。その点、イランから原油を輸入している中国にも言える。王毅共産党政治局員兼外相は14日、イスラエル外相との電話会談でイラン攻撃を批判する一方、仲介する意図を表明しているが、具体策はない。